深夜のATM。
お金を下ろして、飲み会へ向かう。
ただそれだけの、どこにでもありそうな日常の一場面です。
けれど、帰ろうとしたサラリーマンの前で、ドアが開かない。
助けを求めても、返ってくるのは決まりきった言葉だけ。
機械が告げている内容は、何も間違っていません。
ただ、今まさに困っている人間が求めている答えには、まったくなっていないのです。
何を言っても、話がかみ合わない。
こちらは必死なのに、向こうはどこまでも正しく、どこまでも変わらない。
第一話「ATM初号機」では、そんな人間と機械の絶望的なすれ違いが、じわじわと込み上げてくる不条理な可笑しさとして描かれます。
サラリーマンも負けじと機械の理屈に付き合おうとするのですが、それでも会話は成立しない。
何も解決していないはずなのに、最後にはなぜか「まあ、ここなら仕方がない」と思わされてしまう。
短い言葉と余白の中で積み重なっていく、この独特の間がたまりません。
しかし、この作品の本当の面白さは、第一話だけでは終わりません。
続く「ATM弐号機」。
同じ深夜のATM。
同じような始まり。
そして、また繰り返される、あの言葉。
第一話を読んだ直後だからこそ、読者はどこかで、もうこの場所を知っているような気持ちになります。
次に何が起こるのかも、何となく分かっているつもりになる。
けれど、少しずつ気付かされるのです。
何かが違う。
同じはずなのに、今度は笑えない。
先ほどまで可笑しかった言葉が、繰り返されるたびに不穏さを増し、逃げ場を奪い、まったく異なる意味を帯びていく。
第一話で生まれた読者の油断さえも、第二話では恐怖を引き立てる仕掛けへと変わっているのです。
同じ言葉。
同じ場所。
同じような出来事。
それなのに、受け取る感情は正反対。
一話目で笑わせたものを、二話目でこれほど不気味なものへ反転させられるのかと、その構成の鮮やかさに驚かされました。
また、AIとの共創によって生まれた作品であることも、本作の題材と不思議なほどよく響き合っています。
言葉としては正しい。
けれど、人間が本当に求めているものには届いていない。
話しているはずなのに、理解し合えているとは限らない。
そのずれは可笑しくもあり、状況が変われば、途端に恐ろしいものにもなる。
わずか二話のショート作品です。
けれど、この二話は、ぜひ続けて読んでほしい。
第一話を読んだ記憶があるからこそ、第二話の異変が際立ちます。
そして、第二話まで読み終えたとき、最初に感じていた可笑しささえも、どこか別のものに見えてくるかもしれません。
日常の中で何気なく耳にしてきた、機械の声。
次に同じ言葉を聞いたとき、あなたは今までと同じように受け流すことができるでしょうか。
この作品の本当の面白さと恐ろしさは、あらすじだけでは分かりません。
どうか二台のATMを、あなた自身で体験してください。