「あなたの好きなものは、なあに?」
秋の河川敷で交わされた、何気ない問いかけ。
けれど優雅の胸に真っ先に浮かんだ答えは、食べ物ではなく、目の前にいる麟でした。
おいしそうに食べる姿を眺めていたいこと。
驚いた彼女の手を引き、そっと腕の中へ包み込むこと。
三年も一緒にいながら、まだ照れくさくて名前を呼び捨てにできないこと。
そんな何気ないやり取りの一つひとつから、二人が育んできた時間と、言葉にしなくても伝わる優しさが自然と伝わってきます。
食べ物の話から、生きることや大切なものへ。
派手な出来事ではなく、穏やかな会話の積み重ねが、二人の距離や想いを優しく映し出していく――そんな心地よさが、この物語にはありました。
読み終えたあと、秋風のような優しい余韻が心に残る作品です。