第19話 次は
「これ、ですか?」
結城さんから手渡されたのは、別の新聞記事の切り抜きだった。
「はい、ちょっと読んでみてください」
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◇◇市〇〇町の住宅で13日、住人の笠原颯太さん(当時24歳)が死亡しているのが見つかった。〇〇警察署は、現場の状況などから事件に巻き込まれた可能性があるとみて、殺人事件として調べている。同署によると、笠原さんは自宅の玄関付近で倒れており、胸部には刃物による傷があった。死亡したのは発見前の数時間以内とみられている。笠原さんを訪ねた知人が異変に気付き、警察に通報した。室内には荒らされた形跡が一部確認されたものの、現時点で事件との関連は分かっていないという。笠原さんは一人暮らしをしており、近隣住民によると、普段から近所との交流は少なかったという。
警察は、笠原さんの交友関係や当日の行動を詳しく調べるとともに、周辺で不審な人物を見た人がいないか情報提供を呼びかけている。現在までに容疑者の逮捕には至っておらず、捜査は継続している。
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俺が読み終わるのを待って、結城さんがゆっくりと口を開いた。
「この笠原さんが前田さんの前にあの家に住んでいた方です」
「この人も殺されてるってことですか?」
「はい。前田さんが2023年、笠原さんは……2020年です」
「この事件の犯人もまだ捕まってないんですか?」
「はい。こちらもまだ捕まっていないようです」
「これも写真撮っていいですか?」
「どうぞどうぞ」
結城さんも事件について詳しいわけではないらしい。
同じ家で二人の人間が殺されている。
そんなことが、本当に偶然で起こるのだろうか。
「それで、例の『三人目』っていう言葉についてですけど」
「はい」
結城さんが一つ咳払いをしてから口を開く。
「この三人目が清水さんのことを指しているとすれば、その――」
言葉を詰まらせた結城さんは口の中にコーヒーを含んだ。
「すみません。単刀直入にいうと、この二人の次に清水さん、あなたが狙われているということなんじゃないかと、私は考えています」
「それは、つまり……俺が殺されるってことですか?」
「あくまで可能性の話ですが……」
部屋の中を暗い沈黙が包む。
俺が、殺される?
一体、誰に?
「……もし仮にそうだとして、黒崎家はどう関わっているんですかね」
「まあ、一つは黒崎家が清水さんの身に危険が迫っているのを何らかの方法で知っている。そしてもう一つは――」
「もう一つは?」
「……彼ら自身が、清水さんの命を狙っているということ」
結城さんがゆったりとした口調で言い切った。俺も薄々感じていたことだが、やはり黒崎家は俺に何か危害を加えようとしているのだろうか。
「もちろん、これは全て可能性の話です。彼らが清水さんを殺そうとしているかはもちろん、この2つの事件が『三人目』という言葉に関係あるのかもはっきりしていません」
「確かに、そうですね」
「ただ……黒崎家と深く関わりすぎるのは避けた方がいいでしょう。万が一ということもありますからね」
結城さんの言う通りだ。まだ何も分かってない以上、むやみに接触するのは避けた方がいいだろう。
しかし、俺の頭の中に一つの約束が思い出された。
「あっ」
「うん? どうかしましたか?」
「実は……明日、アキラくんと遊ぶ約束がありまして。昨日の夜に言われて、雰囲気的に断れなかったんですけど、今からでも断った方がいいんですかね?」
「それはダメです」
思っていたよりとキッパリとした結城さんの口調に少し驚く。
「ダメ、というのは?」
「黒崎家を無駄に刺激すべき行動は避けるべき、ということです。もしここで約束を断って、清水さんがあちら側の目的に勘づいたと思われたら……」
「身の危険もあるということですか?」
「はい」
「で、でも! 俺、普通に振る舞えるか自信がなくて」
自分を殺そうとしている家族を前にして、何事もないように振る舞えるだろうか。
「何も緊張しなくても大丈夫ですよ。相手はほんの小さい子供です。普通に考えて、アキラくんが清水さんに危害を加えることはないでしょう」
「それは、そうですね……」
「それに、今日お話ししたことは全て私の憶測です。全て勘違いの可能性も高いです。だから今はただの『隣の家族』として接すればいいんじゃないでしょうか?」
「確かに、その通りですね」
結城さんが優しく微笑んでくれた。それと同時に、少しだけ心が軽くなった気がする。
気がつくと、お邪魔してから1時間以上経っていた。
「結城さん、今日はありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
「明日、頑張ってみます」
「はい。もし万が一のことがあったら連絡してください」
書斎を後にして、玄関へと歩みを進める。
俺が靴を履いて、外に出ようとした時、先に玄関のドアが開いた。
「あっ、清水さん! こんにちは!」
「あぁ、アオイちゃん。こんにちは」
ドアの隙間から顔を覗かせたのは、結城さんの娘のアオイちゃんだった。
「おかえり、アオイ。清水さんはもうお帰りになるところだから、一緒にお見送りしようか」
「そんな、わざわざ……」
俺が言い終わらないうちに、ジャージ姿のアオイちゃんは玄関のドアをグイっと開けてくれた。
「今日は部活だったの?」
「はい! ちょうど終わったとこです」
元気ハツラツという言葉が似合う気持ちの良い答えが返ってきて、思わず口元が緩んだ。
「じゃあ、結城さん、今日はありがとうございました」
「はい。さようなら」
二人並んで手を振ってくれる中、俺は結城家を後にした。
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