1-12

「…オイ!いつまで手こずってる!」


 浅黒い肌をした長身の男がカイザー一派の一人に問い詰める。


「すいません!あのメガネの戦闘員に後衛が軒並みやられちまって掃討に時間が…!」


「ゲリラ野郎一匹にカイザーまで駆り出させやがって…!てめえらやる気あんのか!?」


「__なぁー、“コマ”。」


 その後ろから空になったアンパンの赤いパッケージを片手でひらひらさせながら、カイザーがやってきた。


「か、カイザー…どうした?」


 長身の男が態度をころりと変えて振り返る。

 男の名は“コマイヌ”。五年前に野生児同然のカイザーと出会い、その強さを見出して“王”として担ぎ上げた男だった。


「もう、飽きてきたんだけどさー。ここごと全部ぶっ壊していい?」


「待て待て…!あの女は生かして無傷で連れてくのが条件だ。“100億”のヤマだぞ!それだけあればお前の“国”が作れる!前金で1億はもう送られてきたんだ、嘘の案件じゃねえ!だからもう少し待ってくれよ……な?」


「“国”、ねえ。意味あんの?そんなもん。」


「ある!大いにある!カイザー、国があれば“戦争”ができるんだぞ!そうしたらお前は少なくとも“退屈しない”!」


「…あー、そー。」


 カイザーは大袈裟に欠伸をして屋上へと戻っていった。


「…とにかく、女だ!雑魚の相手はいい、女を優先しろ!どうせ丸腰だ、ここから抜け出す手段もありゃしねえ__」


 コマイヌが手下に向き直ったその時、デパートの外からけたたましい振動音が鳴り響いた。


「__あ?」



 数分前。


 ビットたちは食品倉庫や冷蔵室、少し離れたシャワー室などに忍び込み下準備を実行していた。


__『ストレージ』


 ビットの背丈以上もある空の商品棚がカードに吸い込まれていく。


「わあ…!」


「これが“ストレージ”カードの使い方だ。アイテムやオブジェクトを収納する。そして、カードの名前が変わる。これを再度使用すると__」


__『リリース』


 今度はビットの手のひらから別の部屋に商品棚が出現した。


「こうやって、ある程度の距離と向きを指定して取り出すことができる。これが他のゲームでいうところの“どうぐ”や“インベントリ”のここでの仕様だ。それなりにデカい物をカード一枚運べるがいちいち魔法を経由しなけりゃならねえ。…それに戦闘職じゃ、上限枚数が少ない。」


 ビットが作業のために入り口近くに貼っていたお札を剥がした。


「これで12部屋…!」


「ああ、準備完了だ。」



「時間だ。」


「…うん!」


 待機のための安全地帯としていた変電室からビットが顔を出す。


__『リリース』


 その後、敵に見つからないようにカード化していたバイクを近くに出現させた。

 ビットがハンドルを握り、メートルが後ろから掴まる形で座る。


「作戦のおさらいだ。エンジンを起動したらしばらくここで吹かす。ゾンビは音でアクティブ化するからな。そしてアクティブ化したゾンビは簡単にドアを破ってくる。ゾンビか敵を目視したらバイクを発進し、お前は30秒数える。…いいな?」


「うまくいってるといいな……そういえば、鍵とか大丈夫なの?」


「…ああ。これがある。」


__『エレキネシス』


 カードを一枚発動させ、ビットの指先が電流を纏う。そのまま、鍵穴に触れた。鍵穴は一人でにカチリと音を出して回りメーターを点灯させる。


「…これでいつでもいける。準備はいいか?」


「__うん!」


 返事を聞いてビットがスターターボタンを押下した。バイクが小刻みに振動し始める。


「いくぞ!」


 バイクからけたたましい音が響き渡る。ビットは構わずアクセルを吹かし続けた。


「居たぞォ!!生き残りだァ!!」


 後方からカイザー一派と思われる男たちの怒鳴り声が聞こえ始める。


「…やっぱ、こいつらが先か。」


「ほんとにゾンビたちだけで撹乱できるかなぁ…!?」


 轟音の中でも届くようにメートルが精一杯声を張り上げる。


「いいことを教えてやる。この世界のゾンビは__“走る”ぞ。」


 その時、搬入口のシャッターが開き、中からカイザー一派の男達がぞろぞろ現れた。


「あっ…!女__ぎゃあああ!?」


 メートルに気を取られた男が背後から飛びかかってきたゾンビに噛みつかれる。他にも次々とゾンビが現れ男達を襲い始めた。


「あっ…!」


 血飛沫をあげながら倒れる男を見てメートルは言葉にならない声を上げる。


__そうだった。こうするっていうことはこうなるってことだったんだ。


「メートル。」


「…っ!」


 何かを感じ取ったのかビットは前を向いたままメートルに呼びかける。


「ここにいる奴らはこうなることを覚悟している連中だ。変な同情はやめろ。」


「…わかってる。」


「カウント、頼んだぞ。」


「…うん!」


 ビットがバイクを発進させる。


「…1……2……3……!」


 それと同時にメートルも1秒ずつ時間を口で数え始めた。


__『PYROKINESIS』


 バイクが脱出のためにデパートの駐車場まで回り込んだその時、一撃目の“それ”はやってきた。


「掴まれ!」


「うわっ!?」


 ビットは車体を振り回すようにして進行方向を変える。元居た位置に光の束が突き刺さり次いで爆発が起こった。頬に熱を感じながら攻撃の発生源を横目で目視する。

 デパートの屋上には笑みを浮かべるカイザーの姿があった。


「メートル!カウンターはまだ大丈夫か?」


「…うん!今、15……16……!」


「…上出来だ!」


__初撃は余裕で避けれる。だが、あいつは今の一撃で距離感をドンピシャに掴んでくる。問題は次の攻撃…高精度の3WAY同時爆破…!


 ビットがカード一枚とブーメランを同時に取り出し、手に持つ。


「…17……18……20……!」


__『サイコキネシス』


 メートルのカウントが“20”を過ぎると同時にビットがカードを発動させてブーメランを放った。


 サイコキネシスの力を纏ったブーメランは高速回転し、街灯の太い鉄柱を火花を散らしながら切断した。

 鉄柱は倒れ、先端が大型バスの残骸の天井に乗りかかる。


「25……26……27……!」


「カウントはそのまま!腕にもっと力を込めろ!」


 メートルがこくりと頷いて両手強く結んだ。

 ビットのバイクは直線で加速し続け、ほぼ最高速度まで到達する。そして、そのまま先程倒した鉄柱にタイヤを乗り上げさせた。


「28……29……!」


「うおおおお!!」


 鉄柱を伝ってバイクは速度を維持したままバスの上まで駆け登る。


__『PY『PY『PYROKINESIS』


 その時、三本の光の束が放たれた。


「30っ!!…きゃっ!!?」


 最後のカウントが発された時、バイクは横回転を加えながら無軌道に宙を飛んでいた。鉄柱の先からバイクごとジャンプしたビット達は光の束を潜り抜ける。


 一瞬、ビットの視線が屋上のカイザーとかちあった。


__キィィィ!!


 空中の派手な爆炎をよそにバイクは両方のタイヤで地面に着地し、横滑りしながらブレーキする。

 やがて完全に停止し、ビットは神妙な表情で呼吸を整えた後バイクを再び発進させた。メートルはビットにしがみついたまま問いかける。


「ねえ、今のコンティニューした!?」


「一発成功だバカ!」


 ビットは嬉しそうに答えた。



「…へぇ、いるじゃん。おもしれーの。」


 カイザーは薄ら笑いを浮かべながら淡々とデパートから脱出するビット達のバイクを眺めていた。目の下には幾何学模様のように青く光る痣が現れている。


 後方からは屋上まで突破してきたゾンビが一匹、全速力でカイザーの元に襲い掛かろうとしていた。


 カイザーに触れようとしたその瞬間、ゾンビの頭部が跡形もなく弾け飛ぶ。

 拳による一撃がゾンビを粉砕していた。


「ハハハ…!」


 カイザーの口から笑い声が溢れ始める。屋上にはすでにゾンビの大群が押し寄せていた。


「ハハハハハハハハハ!!!アー!!!」


 カイザーは狂ったように笑いながら心底楽しそうに素手でゾンビの群れに突っ込んでいった。

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