古びたミニシアターの最前列、そこが宮野の特等席だった。
だがある日、その特等席のすぐ隣にある男が座るようになる。わずか39席のシアターだが、他の席はガラガラだ。わざわざ隣に座って来る男が現れたのである。
至福の一時を妨害する無粋者。ただでさえうだつの上がらない宮野の毎日に、また舌打ちが増えていく。
そしてひょんなことから、宮野は男と知り合うことになる。男の名は東(あずま)。
毎週金曜日、宮野と東はシアターの最前列で共に映画を見る。一定の距離を保ちながらも、二人の親睦は深まっていく。
だがある日、東はその“一定の距離”を自ら破り、宮野を食事に誘うのだった───
随所に散りばめられた映画ネタや、小気味よくも毒のある宮野の独白が読む手を進ませます。
人と人が交わうその交差点は、ずっと青信号というわけではないのかもしれません。そして信号が赤になったら、もう二度と会えない人もたくさんいるのだと思います。毎週金曜日、『シネマオレンジ』という交差点にいた彼らも、そうだったのかもしれません。
見るだけは見て、それなりに感動やら興奮やらも覚えた映画。だが人生においてはきっと、自分からは進んで二度と見ない映画。そんな一期一会は映画だけではなく、人もそうなのかもしれません。
ですが人の場合は再上映も配信もレンタルもなく、別れれば二度と出会えません。だからこそ、明日につながる何かをその“出会い”から受け取り、“その人”を自分の人生というフィルムに焼き付けようとするのでしょう。なぜなら、もう二度と出会えないとは知りつつも、それでも交差点は青になり人は歩き出さないといけないからです。
夕暮れ色をした青春譚です。映画好き、純文学好きな方にもオススメです。
お読みの際は是非、最前列中央席にお座りください。ひょっとしたらいつの間にか、隣に宮野と東が座っているのかもしれません。
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