夏祭りの喧騒の中、何気なく手にした一本のラムネ。
喉を潤すはずの一口が、思いがけない冷たさとなって「僕」の心をざわつかせる。
瓶の底に沈んでいるはずのビー玉が、まるでこちらを見返してくるように感じた瞬間、忘れたはずの青春の痛みが静かに浮かび上がる。
現実と記憶の境界がゆっくり溶けていく描写は、怖すぎず、それでいて不気味な余韻を残す。
夏祭りの明るさと、ラムネの透明な青さが、かえって過去の影を際立たせる構成が巧み。
グロ要素はなく、心理的な“ぞわり”を楽しむタイプの物語。
ラムネの泡のように、忘れた記憶がふっと浮かび上がる感覚が心地よい一編です。
夏祭りの賑わい、ラムネの冷たさ、炭酸の音……そんな爽やかな情景から始まるのに、気付けばじわじわと嫌な空気に飲み込まれていきます。
この作品の怖さは、グロテスクな描写ではなく主人公の心の中にあります。
ラムネの中の目玉をきっかけに蘇る過去、そして「終わったはずなのに終わっていない」感情。その静かな狂気がとても印象的でした。
ラストでニュースの通知と目玉が繋がる一文はゾッとしました。読み終えたあとにタイトルを見返すと、また違った意味に感じられるのも好きです。
人間の執着や憎しみを描いた後味の悪い作品が好きな人にはぜひ読んでほしい一作です。
夏の宵に、ついフラフラと夏祭に湧く神社の
境内へと足を向けた男。
既に参道には金魚掬いや焼きそば屋台に射的。
色とりどりの縁日の出店が軒を並べる中を
目移りしながら漫ろに歩き、いつの間にか
ラムネの屋台の前にいた。
陽は落ちても未だに暑さは退かず、その
熱気さえも、賑やかな祭りの喧騒に紛れるが
唐突に、喉の 渇き を自覚する。
キラキラと乱反射するラムネの歪な壜は
心地良く冷たかったが。
作者の表現の豊かさに、いつの間にか
神社の夏祭りへと誘われる。
夜の匂い、それを掻き消す様な夏祭りの
賑やかで楽しそうな喧騒。美味しそうな
ソースの焼ける匂い。思わず懐かしさを
覚えた所に
違和感 いや、そんな
曖昧なモノではなく、これは根源的な
拒絶。生々しくも悍ましい禁忌を
夢想させられる。
それは夏の夜の幻か。それとも深く
閉ざされた 闇 の残滓だろうか。
歪なラムネ壜の中から、透き通った
視線が突き刺さる。
あれは本当にあった事なのか。
それとも。
目眩く夏祭りの宵に浮かぶ瞑闇が。
その向こうからこっちを見つめている。