予言があるのに、謎は減らない。そこが本格。
1900年代ニューヨーク。湖で水死した貴族の後継者は、自殺として処理されたはずだった。そこに死者の筆跡で「私は殺された」という手紙が警察へ届く。捜査の出鼻で、未来の見える青年ジャスパー・ハロウェイが警部へ死を予告する。遠回りして生き延びた警部は、彼を助手にして手紙の真相へ向かう。
超能力ものが飛び道具で終わりがちなのに、本作は不思議を本格ミステリの中に収めていく、という既存レビューの指摘が的確です。死者の言葉という古典的な謎に、予言という別角度が混ざる。未来が見えても「誰が、どうやって、なぜ」は残るので、手がかりを拾う楽しさがあります。
古き良き本格が好きな人、時代ものミステリーが好きな人向き。市警へ届いた手紙は嘆願か、挑戦か。ジャスパーの予言を聞いたあとでも、最後まで自分で推理したくなる一作です。
“私は殺された。本当の真実を暴いてほしい”。ニューヨーク市警に届いたその手紙の差出人は5日前に水死したエドワード・アシュクロフト。しかしてこの事件を追うこととなった刑事ネイサン・カーターは、馴染みのカフェで奇妙な若者ジャスパー・ハロウェイに出遭い、告げられたのだ。「今日の午後2時頃、ウェスト47丁目を歩くと、あなたは死ぬ」。
被害者が死後に書いたと思しき手紙から始まる事件は予言により、まさに出鼻の部分でねじ曲がります。死者の言葉というミステリー的な謎へ思わぬ角度から思わぬ不思議が混入され、産み落とされる混沌! こうした仕掛けは普通なら飛び道具で終わるところですが、本作は違います。不思議を担うジャスパーさんが自身の抱える秘密を隠さず明かし、謎を追うネイサンさんはそれを真っ向から受け止め助力を乞う。主要人物ふたりも構成ももったいぶっていないんですよ。だからこそ、どれほど転じようとふたりと物語とは真相へ向けてまっすぐ進んでいくのですね。
さて、肝心の顛末ですが――こちらはどうぞ本編でお楽しみあれ。
(「残暑に効く本格ミステリー」4選/文=髙橋剛)