【油坊】滋賀県や京都府に伝わる怪火、または亡霊。名称は、油を盗んだ僧侶がこれに化けたという伝承に由来する。出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
怪談は怪異そのものより、舞台のディテールにこだわった方が完成度が高まる場合がある。コンビニの駐車場を取りかこむブロック塀、用途不明の5cmちょっと程度の真四角の石、そして小学生の小賢しいスクールカースト──ありふれた、故にこそ生々しい舞台装置の数々が映し出す、おぼろげなのにリアルな怪異の姿。
だが、何より効果的な舞台装置は、いつの時代にも存在する社会的弱者という概念だ。座敷わらしが口減らしという歴史的事実を素地(少なくともその一つ)とするように、妖怪はしばしば声なき彼らの代弁者であった。そのまま伝えるには苦しすぎ、忘れ去るには重すぎる悲劇の記憶を、人々は妖怪たちに仮託してきた。
それを踏みにじったりすれば、報いが下るのは当然であろう。罪悪感という名の呪いは、妖怪たちの故郷──人類の集合無意識から触手を伸ばしてくる。個人の意志で跳ね除けられる程、軽くない。
『おれ』こと主人公は、黒澤と睦山と共に小学校から下校していた。
コンビニのブロック塀のところにある、真四角の石を黒澤は「墓石なんやで」と自慢げに語る。黒澤のグループに一度目をつけられたことのある主人公は、自信満々に話す黒澤の言葉を半ば信じ込んだ。
その後、黒澤は得意げに墓石の由来を話すのだが——といったお話です。
とても怖く、そして面白かったです。本作では昔の伝承のような話が黒澤の口によって話されるのですが、まずそれがもう恐ろしい。聞いているだけで背筋が凍るような話にはリアリティがあって、現実の話のように思えます。
短編小説ではオチが重要なのだと私は思いますが、この作品ではオチも素晴らしかったです。昔ながらの怪異譚のような感じでした。とても面白かったです。
ホラーが好きな方にも、苦手な方にもおすすめです!ぜひ、ぜひご一読ください!
小学生の頃に聞いた、駐車場横に出ている
『石碑』の曰く…。
以前に、この地域では車のガソリンを抜く
泥棒がいて、運悪く車に押し潰されて
亡くなったという。
ブロック塀に染み付いた油の如く
恨みなのか後悔なのか分からぬ程の哀しみが
茫んやりと灯る陰火となって立ち現れる。
車と塀との間に押し潰された無念は、今も
人の口に膾炙するが…。
そもそも、その話をおどろおどろに聞かせて
来たのは卑劣で陰湿ないじめっ子。
他人を軽んじ、自分に従わない者は平然と
仲間外れにするなど造作もない。皆んな、
心の中では辟易しつつ顔色を伺うのが
暗黙の了解だった。
油を盗む者が死後に妖怪になった 油坊。
それを揶揄する卑しい者は、
一体 ナニ になって終うのか。
流石の筆致に、思わず 唸る。
夏の宵に相応しい怪談。