第21話

犬塚信乃(いぬづか・しの)と犬川荘助(いぬかわ・そうすけ)が義兄弟の誓いを結んだ直後、糠助(ぬかすけ)が訪ねてきた。


荘助はすぐ寝床へ戻り、病気のふりをした。蟇六夫婦の小者である額蔵(がくぞう)として、信乃と親しくないように見せるためである。


糠助は、額蔵が寝込んでいると知ると、大塚蟇六(おおつか・ひくろく)へ知らせ、代わりの者を送ってもらおうと考えた。


屋敷へ戻された額蔵は、信乃が何も仕事をさせず、話しかけても返事をしないため、退屈に耐えられず仮病を使ったと説明した。蟇六と亀篠(かめざさ)は、その不仲を利用することにした。


信乃の家へもう一度行き、嫌われても辛抱して近づき、何を考えているか探れ。主人夫婦に不利な話を聞いたら報告せよ。そう命じた。荘助は忠実な小者を装って引き受けた。


これで荘助は、表向きは蟇六夫婦の間者として、信乃のそばへ堂々と置かれる。実際には、信乃を守り、蟇六夫婦の企みを知らせる二重の間者になった。


亀篠は額蔵を連れて信乃の家へ行き、仲直りをさせた。さらに、父の四十九日を待たず、三十五日の法要が済んだら母屋へ移るよう勧めた。


信乃は、住み慣れた家を離れがたいが、伯母へ心配をかけ続けるのもよくないと答え、受け入れた。亀篠が帰ると、荘助は密談をすべて信乃へ報告した。


信乃は、肉親である伯母と敵同士のように疑い合わねばならないことを嘆いた。荘助は、欲のために家族の情を忘れる人間だと分かっていれば、悪意を避けることはできると励ました。


「私は陰から盾になります。あなたは父上の遺言どおり伯母の家へ入り、状況に応じて身を守ってください」


## 法要の席


*


番作の死から三十五日目の前夜、法要の宴が開かれた。


糠助をはじめ、番作を慕う村人が大勢集まった。そこへ蟇六が現れ、信乃を引き取って立派に育て、娘の浜路(はまじ)と結婚させ、大塚家の跡継ぎにすると宣言した。


そして村人が番作夫婦のために買った「番作田」を、村へ返すか信乃へ譲るかと尋ねた。


村人は、親の物は子の物だから、信乃へ譲るべきだと答えた。


蟇六は、信乃が成人するまで自分が証文を預かり、番作の旧宅は米倉にすると言った。信乃のために管理する形を取りながら、実際には田を自分の支配下へ置く。


村人が黙ると、亀篠が涙を見せた。


信乃は自分の子であり将来の婿でもある。いずれ蟇六家のすべてが信乃の物になるのだから、田を奪う理由などない。そう語り、親切な伯母を演じた。村人は心を動かされ、蟇六の管理へ同意した。


## 空になった旧宅


翌朝、信乃が父母の墓参りへ出ると、蟇六夫婦はすぐ旧宅の家財を運び出させた。かまどの道具、畳、むしろ、戸や障子まで売り払い、空き家にした。


信乃は覚悟していたが、父の三十五日の忌日が終わる一日さえ待たない手際に呆れた。村人の気持ちが変わる前に、既成事実を作りたかったのだろう。


旧宅へ最後に寄ると、門は閉ざされていた。信乃は、与四郎(よしろう)を埋めた梅の木の幹を削り、「この畜生も菩提心を起こしますように。南無阿弥陀仏」と書いた。


蟇六の屋敷へ行くと、夫婦は信乃を優しく迎えた。二十歳になれば浜路と結婚させ、二代目の荘官にするという。


浜路は信乃の従姉妹であり、二人は幼いころから互いの姿を知っていた。将来の夫婦だと言われ、浜路は恥ずかしがって屏風の陰へ逃げた。


信乃は、甘い言葉ほど自分には毒になると考え、気を許さなかった。


夏が過ぎ、父の喪が明けると、亀篠は信乃の女物の服を男物へ直した。十一歳の信乃は十四、五歳に見えるほど背が高い。蟇六は元服(げんぷく)、つまり成人の形を整える儀式まで行った。


村人は、蟇六が本当に心を改めたと思い始めた。


## 八つずつ実る梅


*


翌年三月、番作の一周忌に、信乃は額蔵姿の荘助を連れて墓参りをした。


帰りに荒れた旧宅へ入り、与四郎を埋めた梅の木を見ると、青梅がたくさん実っていた。どの枝にも、八つずつまとまっている。


しかも八つの実には、「仁」「義」「礼」「智」「忠」「信」「孝」「悌」の文字が一字ずつ浮かんでいた。


信乃が幹へ書いた「この畜生も菩提心を起こすように」という文の八文字は消え、その代わりに八徳が実へ現れたように見えた。


荘助は「義」の珠、信乃は「孝」の珠を出した。梅の実と珠は形が似ており、中の文字まで同じである。


「珠はもともと八つあり、八徳の文字を一つずつ持つのかもしれない。ならば残る六つも、どこかにあるはずだ」


二人はそう推測したが、梅と珠が結びつく理由までは分からない。いつか因縁が明らかになるまで、誰にも話さず秘密にすることにした。


五月に実が熟すと、村人も八つずつ実る珍しい梅へ気づいた。しかし八徳の文字は消えており、見たのは信乃と荘助だけだった。


梅は毎年、八つずつまとまって実る名木となり、「八房の梅」と呼ばれた。そばの墓も「与四郎塚」として語り伝えられた。

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