理不尽をやり返す話は数あれど、本作が抜けているのは「なぜ主人公がそこへ踏み切ったか」の道筋を、一切省略しないことです。探索者に殴られ、社長にクビにされ、警察にたらい回され、協会に「この程度の話」と言われる。第1話のこの四段構えがあるからこそ、「OK……了解了解了解……理解した」という壊れ方に説得力が生まれます。
面白いのは、覚醒後の主人公が暴走しないこと。むしろ彼は自分に法を課します。人間相手に先制攻撃はしない。反撃は等価であること。殺意には殺意を——このルールを、暴走気味の眷属ムギンに向かって定めるくだりが白眉で、「何も考えずに探索者をしていれば、俺を殴ってきた奴らみたいになってしまう」という自覚が主人公の背骨になっています。目標が「世界一強い探索者」ではなく「世界一敵に回したくない探索者」なのも、実に彼らしい。
そして『カラスの王』の設計が秀逸。感覚共有による全国規模の監視網、体から無尽蔵に湧く眷属、ダメージの肩代わり。地味に始まった能力が、話が進むほど「敵に回したくなさ」を積み上げていく構成が気持ちいい。
過激派の相棒ムギンとの掛け合いも軽妙。第一部の決着まで一気に読める、キレのいい復讐譚です。