第44話「王宮の迷宮」

ミリアが第八皇女として王宮に戻ってから、数日が経った。

その日、王宮の会議室では、国王側の家臣や貴族たちと、影の女に操られた反乱側の家臣や貴族たちが、鋭い言葉を交わしていた。

「だから、言っているではありませんか!この国の資金難を解決しない限り、リーフレット王国は長く持ちません!」

「だったら、資金難を根本から取り払うべきだろう?国を作り直せばいいのではないですか!」

お互いの主張は平行線のまま、激しくぶつかり合っている。

その様子を見つめながら、ミリアは冷静に沈黙を守っていた。

すると、反乱側の一人が彼女に視線を向け、挑発的に問いかけた。

「ミリア皇女、さっきからあなたは何も発言していませんね……あなたはどちらの味方なのですか?」

会議室の視線が、一斉にミリアに集まる。

ミリアは静かに立ち上がり、はっきりと答えた。

「私は第八皇女として、国王陛下の側に立つ。だが、あなたたち反乱側の主張も理解できる。でも——この国を作り直すという案には、私は絶対に賛同できない!」

その瞬間——

「ミリア皇女!」

会議室の扉が開き、息を切らした兵士が駆け込んできた。

「どうした?」

「リーフレット王国の北東の地に、突如として迷宮が現れました!」

「迷宮……?」

ミリアは眉をひそめる。

「はい、現在街ではその噂が広まり、冒険者たちが次々と向かっています!」

(これは……ただの迷宮じゃない。)

ミリアの脳裏に、ある考えが浮かんだ。

——これは、"影の女"が仕掛けた罠では?

彼女がこのタイミングで迷宮を作ったのは、私を呼び出すための可能性が高い。

「私もすぐに向かうわ!」

会議は一時中断され、ミリアは急いで自室へ戻った。

彼女は、かつて冒険者として活動していたときの服装に着替え、腰に暁の塔の仲間たちから贈られた短剣を装備する。

「……今度こそ、全てを明らかにする。」

ミリアは決意を胸に、王宮を飛び出した。


北東の地へ到着すると、そこにはすでに大勢の冒険者たちが集まっていた。

しかし、迷宮の入り口は開かず、誰も中に入れない状態だった。

「どういうことだ?」

「俺たちがどれだけ試しても、扉が開かねぇんだ!」

その様子を見たミリアは、前に出て声を張る。

「皆さん、道を開けてください!」

冒険者たちは驚きながらも、ミリアの存在を認識し、入り口の前を開けた。

ミリアが扉に近づくと、まるで彼女を待っていたかのように、迷宮の扉がゆっくりと開いた。

(……やっぱり、これは私を狙ったものだった。)

「ここから先は、私が行きます。皆さんは街へ戻り、様子を見てください。」

冒険者たちの静かな視線を背に、ミリアは迷宮の奥へと足を踏み入れた。


迷宮の中は暗闇に包まれていた。

壁を手探りしながら進んでいくと、やがて前方に灯りが見えた。

(あの先に……何かがある。)

慎重に足を進めると、開けた空間にたどり着く。

そこはまるでコロシアムのような広場だった。

そして、その中央に佇むのは——

「やっぱり来たわね、ミリア・リーフレット。」

影の女。

彼女はフードを深く被りながら、静かに微笑んでいた。

「……この迷宮を作ったのは、あなた?」

「ええ、そうよ。あなたをおびき寄せるために。」

その言葉に、ミリアの表情が険しくなる。

そして影の女の前には——

「っ!」

(まさか……!)

ミリアの目の前に並んでいたのは、行方不明だった暁の塔の仲間たちだった。

しかし、彼らの瞳は虚ろで、影の女の命令を待っているかのように立ち尽くしている。

「影の女……彼らを解放して!」

「いやだね。」

「なぜ!? 私が目的なら、こんなことをする必要はないはず……!」

影の女は冷たく笑いながら答える。

「確かに、直接あなたを狙う方法はいくらでもあったわ。でもね……これは"けじめ"なのよ。」

その瞬間、影の女が指を鳴らす。

すると、操られた暁の塔の仲間たちが、ミリアに向かって一斉に動き出した。

「っ……!」

ミリアは短剣を構え、いつでも迎撃できる体勢を取る。

だが——

彼らの動きが、突然止まった。

「え……?」

影の女は、苛立ちを滲ませながら再び指示を飛ばす。

しかし、彼らは動かない。

「チッ……もう、限界が来たか。」

影の女は唇を噛み、踵を返す。

「ミリア・リーフレット……この迷宮の勝利はあなたに譲るわ。でも、私の計画は——そろそろ終盤よ。」

そう言い残し、影の女は迷宮の奥へと消えた。

直後、操られていた仲間たちは崩れ落ち、その場に倒れ込んだ。


ミリアは、仲間たちを抱えながら迷宮を後にし、冒険者たちに彼らを託す。

「彼らをギルドへ……ギルド長に報告を!」

そして、ミリア自身は王宮へ急いだ。

再び会議室へ戻ると——

そこには誰もいなかった。

静まり返る部屋の中央に、ただ一人の人物が立っていた。

影の女。

「待っていたわよ、ミリア。」

ミリアが警戒しながら前へ進むと、影の女は静かにフードを脱ぐ。

そして、その正体が明らかになる。

「あなた……まさか……!?」

影の女の素顔は——

第三皇女、ヴェロニカ・リーフレットだった。

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