怪異、過不足ない不気味な描写、スリラー、モキュメンタリー、他多数……。
ありとあらゆるホラー要素が溶け合うように融合している本作。
ホラーどころかラブコメやバトルものすらカバーしていて面白い!
あらすじはホラー系ギャグ作品のように見えます……が、さにあらず。
本文を追ってみれば、考えうるホラー系エンタメ全要素を良いとこ取りした作品だと分かるハズです。
何せ全ての要素、好みに当てはまる部分は必ずどこかにあります。
あらすじにも登場する異形系ヒロイン“マキシマノリコ”も立派な怪異なので、
彼女のホラー描写もしっかり不気味、ばっちりホラー。
しかしちゃんとヒロインとして可愛いという部分までがっつり作られています。
『変わったヒロインに主人公が好かれる』というテンプレに則りながら、
相反する二要素“ホラーと可愛さ”を両立させられる作者さんの手腕は大したものです。
主人公:鈴木とマキシマノリコが怪異たちと戦うアクション描写も充実しており、
この怪異たちのディテールも凝りに凝っていて……。
文章のテンポも良くてさくさく読めます。
ホラー作品ということもあって視覚的な効果も意識されてるんでしょうか?
ホラーを楽しみたい方、ロマンスを楽しみたい方、興味を惹かれた方。
一度手に取ってみてはいかがでしょう? オススメです。
怖かったです。
いや、最初はこんなことを書くつもりじゃなかったんですよ。
プロローグに登場するのは、長い黒髪に血まみれのワンピースという、あまりにも「王道」な女の幽霊。
ところが主人公は怖がらない。
なぜなら――猛烈にトイレに行きたいから。
ひどい。最高です。
「なるほど。王道ホラーの記号を使って笑わせる、怪異ラブコメね」
なんて油断していたら、次の話でいきなりモキュメンタリー形式の行方不明者情報を読まされます。
存在しない雨。
深夜にかかってくる電話。
「恵みの雨をありがとうございます」という言葉。
そしてまた、主人公と異形の女性・マキシマノリコの、どこか間の抜けた会話に戻る。
笑う。
安心する。
――そこで、冷や水を浴びせられる。
この作者さん、ホラーの「呼吸」がとても上手いです。
怖い場面を延々と続けるのではありません。
笑わせる。
安心させる。
資料を一枚だけ見せる。
違和感を残す。
また笑わせる。
そうやって読者が息をついたところで、急に温度を下げてくる。
「恐の呼吸」の使い手です。
恐柱(おそればしら)です。
そして、本作を読んでいて特に感じたのが、
恐怖が、まず耳から入ってくる。
ということでした。
「ぐちゃ、ぐちゃ」と近づいてくる足音。
「見ないで」という短い一言。
「みしり」と身体から生えてくる眼球。
異常に伸びた首や腕そのものより、元に戻った瞬間の「ゴキリ」。
視覚的な異形を描いているはずなのに、怖さの決定打になるのはしばしば「音」なのです。
特に、資料の中で何度も読んだ言葉が、やがて主人公のすぐ背後から聞こえてくる演出にはゾッとしました。
ああ、この人は文字で「音」を鳴らすのが上手いんだ。
そう気づいてからは、擬音が出てくるたびに嫌な予感がするようになりました。
これは朗読やボイスドラマにしても相当強い作品だと思います。
一方、モキュメンタリー部分では別の技も見せてくれます。
自治体のお知らせ。
手記。
SNSへの投稿。
留守番電話。
既知のフォーマットが少しずつ怪異に侵食されていく。
とりわけSNSのログが壊れていき、最後には文字すら失われて「◉」だけになっていく演出。
洒落怖じゃん!!
こういうの大好きです。
本編と資料を交互に読むことで、読者自身が断片をつなぎ、「もしかしてこれは……」と怪異の輪郭を作っていく。そして答え合わせが来たころには、もう次の謎が置かれている。
無駄がありません。
さらに感心したのが、次々と「新しい読み味」を投入してくること。
怪異ラブコメかと思ったらモキュメンタリー。
民俗ホラーになったかと思えば洒落怖。
文字そのものを使ったメタ演出まで飛び出す。
それでも中心には、マキシマノリコと主人公の関係がある。
だから散漫にならない。
第二章では、圧倒的に強い異形であるマキシマさんに任せておけばいいところで、何の力もない主人公が自ら怪異へ走っていく場面もあります。
ここが、とても良かった。
彼は恐怖を克服したヒーローではありません。
怖いまま、それでも誰かのために動く人です。
ここで初めて、「強くて面白い怪異ヒロインの横にいる一般人」ではなく、ちゃんとこの物語の主人公になったように感じました。
ホラーだけではなく、ラブコメ、バディ、人間ドラマとしても続きを読みたくなる理由がここにあります。
そして、ここからは本当に細かな改善提案です。
本作は「音」と「言葉」の恐怖が抜群に上手い。
だからこそ、もう一つ。
「一枚の絵として残る恐怖」を、もっと信用してもいいのではないでしょうか。
たとえば作中に登場する『シャイニング』のオマージュ。
台詞や「狂気に取り憑かれた男」といった説明までしなくても、
斧で叩き割られたドアから、おじさんの笑顔が覗く。
それだけで、知っている人の頭にはあの絵が浮かびます。
知らない人にだって、その絵自体が怖い。
『リング』なら、テレビに映る井戸。
ホラーには、作品を詳しく知らなくても多くの人が共有できる「絵」があります。
台詞ではなく、絵を呼び出す。
本作自身の怪異描写についても同じことを感じました。
実は作者さん、ちゃんと怖い絵を作れているんです。
全身から眼球が生える人間。
クローゼットの隙間から見える大量の手。
世界そのものを埋め尽くしていく「◉」。
だから、その絵が出た瞬間には、説明をもう一歩早く止めてもいい。
読者の頭に絵が浮かんだなら、あとはその絵を信用して手を離す。
たとえばマキシマさんが怪異を捕食する場面なら、もっと巨大な口で一口に「ぱくり」と食べて、顔だけを「ぷっ」と吐き出す――そんな一枚絵でも、彼女の圧倒的な格と異形性を一瞬で伝えられる気がしました。
本作にはすでに、
「ゴキリ」と聞いただけで首の骨まで想像させる力があります。
そこに、一目見たら忘れられない「絵」まで加わったら。
鬼に金棒。
いや、ホラー小説なので――
伽椰子に俊雄です。
王道的なホラーの記号をしっかり押さえながら、モキュメンタリー、ラブコメ、バディもの、ネット怪談と、次々に違う顔を見せてくれる作品でした。
本当に怖かった。
そして何より、
怖がらされるのが、楽しかったです。
この先も個人的に読みたい作品です。
グロテスクなのにどこか可笑しみがある、この振れ幅がすごく癖になりました。
冒頭の「うんこが」で緊張と緩和を一気にやってのけるバランス感覚、只者じゃないです。
マキシマさんの片言と流暢な口調が入れ替わる演出も、恐怖の質感を巧みにコントロールしていて引き込まれました。
化け物の捕食シーン、視覚と聴覚の描写がすごく生々しくて、ストローで泥水を吸うような音の表現がずっと頭に残っています🌧️
そのあとの「あんまりおいしくなかったですねぇ」の温度差も絶妙で、この世ならざる存在の異質さがきちんと伝わってきました。
そして戦争の記憶を背負った老人の独白パート。
水神様の伝承と行方不明事案がリンクしていく構成が丁寧で、単なるホラーではなく怨念や罪の連鎖を描く物語になっているのが良かったです⛩️
鈴木さんが「面白いから」という理由でパートナーに選ばれ、恐怖より奇妙な居心地の良さを感じてしまうラストの心情も印象的でした。この後どんな異形と遭遇していくのか...。