2.夕陽の光

  『波打つ心臓 あふれて壊れそう』

  『夕陽の光 まぶしくて泣きそうになる』


 喧騒から逃げだすみたいに、わたしは砂浜へ駆けこんだ。


 燃えたつような夕陽の光が、篝火となって海を照らしていた。色濃く紅を映す水平線は煌々として、わたしはそのまぶしさから目を逸らして、天を仰いだ。


 やがて、藍を深める空には星々が瞬きはじめ、過ぎゆく時間を針が刻むように、大きな大きな円弧で巡る。手を伸ばしても届かない、戻らない時間のことを思うと、本当にちょっとだけ、泣きそうになる。


 遠くで花火の音が鳴る。華やかな彩りの残滓が、くすぶる煙となって宵に流れる。それが、目を背けて逃げてきた、夏祭りのことを思い出させる。

 決して、悲しい記憶ではないのに。むしろ大切で幸せで、幼少期を鮮やかに彩る思い出なのに。今は、それが疎ましい。あの頃はもう帰ってこないのだと、突きつけられるようで。


 でも、いくら胸を押さえつけようと、血潮のように湧きあがるいつかの夏を、わたしは止められない。

 

  『指切り 懐かしい 交わした約束』

  『知ってた いつか終わりがくると』


 小学生のとき、あのひとと一緒に夏祭りへ出かけた。


 七年経った今からすれば大したことではないけれど、電車に乗って隣の市まで遊びにいくことは、当時のわたしには胸踊る冒険だった。揺れる袖には紫陽花を咲かせて、手には水風船を携えて、どきどきで頬を赤くしていた。でも、一番よく覚えているのは、華やかな屋台でも空に轟く花火でもなくて、差し出された手の温度だった。


 はぐれてしまって、喧騒の陰で途方に暮れて泣いていたとき、見つけてくれたあのひとが、優しく手を取ってくれた。そのとき、あまりに寂しそうだったわたしを見かねたのだろう。小指を絡ませて、約束してくれた。

 

 ――ずっと、一緒にいるからな。


 そんな恥ずかしいこと、わたしもつい最近まで忘れていた。いや、当たり前だと思い込んでいて、わざわざ意識しなかったのかもしれない。

 けれど、二歳上のあのひとが、とびきりかっこよく見えたことを、今になって思い出して、苦しくなる。


 幼いころの口約束を引きずっている自分が、ひどく子供っぽく思えて、いたたまれない。きっと、あのひとはもう覚えていないだろう。


 わたしだって、知っていたはずだ。


 あの日すくいあげた金魚は、とうに死んでしまった。それどころか、金魚鉢の方も落として割って捨ててしまった。

 透きとおった硝子のような、爽やかに響く風鈴のような思い出は、かくも脆い。形あるものですらなくなるのに、手の中に留めておけない約束なんて、いつか終わりがくるに決まってる。


 そう、頭ではわかっているのに。

 迎えのこない寂しさを、わたしは未だに割り切れなかった。

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