第2話 タナカ散る


「主任、先ほど帰艦したタナカ中尉が探してましたよ」


 小隕石群を挟んで対峙した敵部隊との長距離戦闘を終え、続々と帰投するモービルスイーツの整備指示に走り回るカーペンター技術主任を、若いメカニッククルーが呼び止めた。


「タナカ中尉が?」


「なんか、カンカンに怒ってましたよ。『カーペンターを呼んで来い!』って」


 メカニックはそれだけ言うと肩をすくめて持ち場に戻って行った。


「やれやれ。今回はいったい何が不満なんだろうね」


 忙しくても面倒でも、上官に呼ばれれば行かねばならない。

 それが軍属の悲しいところだ。



 第二格納庫に着くと、探すまでもなくタナカ中尉が大股で一目散に向かってきた。


 もう、見るからに怒っている。頭から湯気が出ているようだ。


「貴様! 一体どういうことだ!」


 いきなり怒鳴られても、言葉足らず過ぎてわからない。


「どう、とは?」


「しらばっくれるな! あのポンコツのことに決まっているだろう!」


「ポンコツ……今日の出撃で中尉が搭乗した改良型ザコのことですか?」


「そのザコのことだ。貴様、ザコの肩に大砲付けただろう」


「ハイパー荷電粒子キャノンのことですよね? 現行モービルスイーツの装備として最大出力・最大射程の凶悪な戦術兵器ですからね、すごい威力だったでしょう」


「ああ、すごい威力だった。一発撃った瞬間、反動で俺の機体の胸から上がぜんぶ吹っ飛ぶくらいにな」


「えっ」


「『えっ』じゃない! 逆に狙撃されたのかと思ったよ。逆にな」


「そんな、まさか」


「俺のセリフだ! 『隊長機が大砲撃った途端に粉々になった』って後ろで見てた部下の証言もあるからな。言い逃れはできんぞ」


「設計上、ありえないですよ」


「ありえたの! 俺のザコが粉々に吹っ飛ぶ瞬間を目撃したその部下、俺に何て言ったと思う?」


「何て言ったんです」


「『桔梗信玄餅の前で思い切りクシャミしたらあんな感じになりますよね』って」


 思わずフフッとなるカーペンター技術主任。


「え、何で笑ってるの?」


「いえ、笑ってないです」


「逆に何で笑えるの? ビックリするわ」


「全然笑ってないです」


「マジかお前……」


「とにかく、今回の件は技術開発局とも連携してしっかり対応しますので。今後こういったことは絶対に起きません!」


「次はないからな? 覚えとけ!」


 怒りを発散して幾分か落ち着きを取り戻したタナカが大股でパイロット控室に戻って行った。


 その背を見送りながらやれやれとため息をひとつ吐くと、カーペンター技術主任もまた自分の仕事へと戻って行った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る