金継ぎをはじめとする器の繕いの技法が、単なる舞台設定ではなく、物語の構造そのものになっている点がとても印象的でした。割れ口を読み、継ぎ目を隠さず、器の来歴を確かめるという職人の仕事が、そのまま過去の事件に隠された嘘を見抜く推理へとつながっていきます。
春の香合、夏の切子、秋の呼継茶碗、冬の白茶碗と、それぞれ独立した謎を楽しみながら、少しずつ八年前の「雪紅」の真相へ近づいていく構成も見事でした。一見すると無関係だった器や依頼人たちが、終盤で一本の線につながる瞬間には大きな驚きがあります。
特に良かったのは、犯人や真相を暴くことだけで終わらず、盗人とされた繕い師の名誉、罪悪感を抱えて生きてきた主人公の人生、そして壊れた器そのものを「継ぎ直す」物語になっているところです。静かな文章と北陸の四季、水の描写も美しく、工芸小説としても本格ミステリとしても読み応えがありました。
読み終えたあと、「継ぎ目は、隠さない」という言葉が深く残ります。壊れたものは元通りにはならなくても、傷を抱えたまま別の美しさを得られるのだと感じさせてくれる作品でした。