「完璧な優等生」と呼ばれる鹿紫雲璃音。
成績も容姿も申し分なく、恋人にも恵まれた彼の日常は、一見すると誰もが羨むものに見える。
しかし、その完璧さは、彼自身が望んだものではなかった。
家族から背負わされた期待。
亡き姉が遺した懐中時計。
そして、それを守ることだけが、自分と過去を繋ぎ止める唯一のもの。
そんな璃音の日常を、友人だった岡田が少しずつ壊していく。
いじめ、脅迫、捏造された証拠、恋人への工作。
岡田の復讐は、単なる嫌がらせではない。
璃音から「信頼」「恋人」「学校での居場所」そして最後には「家族の遺したもの」まで奪おうとする、徹底したものだ。
対して璃音は、最初から強い主人公というわけではない。
むしろ、完璧であろうとするほど、自分自身を追い詰めている。
だからこそ印象に残るのが、物語が進むにつれて少しずつ変わっていく璃音の姿だ。
「完璧な優等生」であることを捨てても、自分が守るべきものは何なのか。
家族の罪まで自分が背負うべきなのか。
復讐に復讐で応じることが、本当に正しいのか。
そして、そんな璃音を最後まで見捨てない幼馴染・百合沙の存在も、この物語の大きな魅力だと思う。
特に、璃音が「勝った」と言える状況になっても、かつての「完璧な日常」はもう戻ってこないという描写が印象的だった。
この物語が描いているのは、単純な勧善懲悪ではない。
復讐する側にも、復讐する理由がある。
傷つけられた側にも、知らなかった過去がある。
そして、その因縁に巻き込まれた人間たちもまた、それぞれの事情を抱えている。
だからこそ最後に残るのは、
「自分は何を守りたいのか」
という問いなのだと思う。
家族が遺したものを守る。
けれど、それだけではない。
完璧な人間であることをやめても、それでも自分自身として生きていく。
タイトルにある「ただ幸せでいたい」という願いが、物語を読み進めるほど重く感じられる作品です。
復讐、家族の因縁、友情、恋愛、そして贖罪。
追い詰められた少年が、すべてを失いながら「本当に守るべきもの」を見つけていく物語でした。