第十四章 書きかけのページ(1)

今日も明然は寝坊した。

けれど今朝は、暴力的な方法で起こしてくる人がいなかった。

両手をついて身体を起こし、辺りを見回す。

雪児の姿は、どこにもない。

明然は心の中で呟いた。

忌々しい冷血女。

今日は日曜日なのに、どうして早起きするのよ。

目を覚ましたとき、いつものように雪児の胸の中にいなかったことへの寂しさには、意地でも気づかないふりをした。

別に、あの柔らかな二つの球が恋しいわけではありませんからね!

誰に聞かせるでもなく弁解しながら、ゆっくりとベッドから足を下ろす。

気持ちよく両腕を伸ばし、大きな欠伸をした。

部屋には誰もいない。

わざわざ「淑女らしく」振る舞う必要などなかった。

もっとも、普段からそれほど淑女らしい姿を見せているわけでもないのだが。

明然は着ぐるみパジャマのフードを持ち上げた。

今日は「角」はない。

代わりに、「猫の耳」が二つついていた。

そう。

本日の舞台へ登場するのは、明然“猫”である。

猫耳のことを思い出した途端、明然は歯を食いしばった。

昨夜、雪児へ噛みつかずに耐えるため、どれほどの自制心を使ったことか。

雪児が、あれほど「毛の生えた動物」を好むとは思わなかった。

一晩中、雪児は明然へ触り続けた。

いや――明然の「猫耳」へ触り続けた。

撫でるだけではない。

揉んだり、軽く叩いたりまでした。

けれど、その猫耳はフードについている。

つまり、明然の頭の上にあるのだ。

耳を叩かれることは、頭を撫でたり軽く叩かれたりするのと、ほとんど変わらない。

痛くはなかった。

ただ、妙に恥ずかしかった。

眠る前に、大人から優しくあやされている子供のようだったからだ。

明然は浴室へ入り、素早く猫の着ぐるみパジャマを脱いだ。

昨夜の「恐ろしい記憶」など、もう思い出したくなかった。

* * *

一階の食堂では、雪児がスマートフォンを眺めていた。

Tシャツと部屋着用の七分丈パンツへ着替えた明然は、階段を下りながら周囲を見回した。

雪児の姿を見つけた瞬間、思わず安堵の息を吐く。

足早に食堂へ向かい、雪児の隣の椅子を引いて腰を下ろした。

笑顔で尋ねる。

「朝御飯は食べましたか」

「まだです。明然さんを待っていました」

「私、まだ何も作っていませんけど……」

「構いません。富さんに朝食を買ってきてもらいました。もう食べましょう」

「何を買ったんですか」

「五目肉まんと牛乳、それからパテを挟んだバゲットサンドです。好きなものを取ってください」

食卓には、肉まんの容器が二つ、パテ入りのバゲットサンドが二本、牛乳が二本並べられていた。

蒸したばかりの肉まんはまだ熱く、白くふっくらとした表面の周りを、細い湯気がのんびり漂っている。

バゲットも焼きたてのように温かく、表面は黄金色で香ばしそうだった。

雪児は牛乳瓶の蓋を開け、陶器のカップへ注いだ。

明然は蓋を開けると、そのまま瓶へ口をつけ、一息に飲む。

酒を飲み干した人間のように、満足そうに大きく息を吐いた。

雪児は横目で一度見ただけで、何も言わず、カップの牛乳を飲み続けた。

明然は肉まんを一つ取り、大きくかじる。

飲み込んだ直後に言った。

「私は肉まん一つで十分です」

「私も、バゲットサンド一本しか食べません。残りは富さんと貴さんの分です」

「あ……」

「家にいる全員の朝食を買ってくるよう、富さんへ頼んだんです。だから、どちらも二人分あります」

「では、どうして牛乳は二本しかないんですか」

「富さんと貴さんが牛乳を飲むと思います?」

ちょうどそのとき、富と貴が居間へ入ってきた。

二人の手には、それぞれブラックコーヒーのカップがある。

明然は口を閉じ、それ以上何も尋ねなかった。

雪児は二人へ軽く頭を下げ、落ち着いて朝食を続けた。

明然も少し不安を感じながら、雪児を真似て挨拶する。

貴は富よりもずっと素朴で、人のよさそうな顔をしていた。

会うのは初めてだったが、明然は何となく、この人が庭師の貴なのだと分かった。

朝食を終えた雪児は、ゆっくりと紙ナプキンで口元を拭いた。

それから貴へ顔を向け、明然を紹介する。

「貴さん。こちらは明然で……その……」

「若旦那様の奥様でしょう?」

貴は人懐こそうに笑った。

「はじめまして、明然さん」

「はい。はじめまして」

明然はぎこちなく微笑み、困惑を隠すように軽く頭を下げた。

「若旦那様の奥様」という言葉が、胸へ鋭く突き刺さった。

この数日間、雪児といることがあまりにも心地よく、自分には別の恥ずかしい「立場」があることを忘れかけていた。

雪児のことを、すでに義妹だとは思っていない。

顔さえ見たことのない「夫」が存在することも、もうすぐ完全に忘れてしまいそうだった。

雪児もわずかに眉を寄せたが、何も言わなかった。

富は、その場の空気が変化したことへすぐ気づいた。

貴の肩を軽く叩き、雪児へ言う。

「私たちは庭の東屋で、風に当たりながら朝食をいただきましょう」

食卓に残っていた肉まんとバゲットサンドを手早く取り、貴を連れて玄関へ向かう。

雪児の横を通る際、富は意味深い目で彼女を見た。

けれど、雪児は気づいていないようだった。

静かに朝食を終える。

明然も食べ終わり、二人の姿が木々の向こうへ消えていくのを見て、そっと安堵の息を吐いた。

雪児へ尋ねる。

「今日は、どこかへ出かける予定がありますか」

「ありません。一日中仕事部屋にこもって、締め切りへ間に合わせます」

「では、私はどうすればいいんです?」

「……?」

雪児は不思議そうに明然を見た。

「好きなことをすればいいでしょう。遊びに出かけたければ、出かければいいですし」

「雪児さんがいないのに、何をして遊ぶんですか……」

「子供なんですか。一緒に遊ぶ相手まで必要なんて」

「私はただ……雪児さんと……」

明然の声はどんどん小さくなり、ほとんど独り言になった。

雪児さんと一緒にいたいだけです。

さすがに、それを口にすることはできなかった。

何だか妙な意味に聞こえてしまう。

雪児は気づかず、二階へ上がろうとした。

少し考えてから、明然へ声をかける。

「退屈なら、書斎へ行っても構いません。小説や漫画、雑誌などがありますから」

少し間を置き、付け加えた。

「ただし、どろどろした恋愛小説はありません。そういうものを読みたいなら――」

「私を、そんな浅薄な人間だと思っているんですか。ふん」

雪児は眉を上げ、面白そうに明然を眺めた。

二階へ続く階段の下に立ち、ついてくるのを待っているようだった。

明然は少しためらったあと、雪児の後ろを歩いていった。


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