第8話 『禍動』
ゼンとフィーナは南の自由交易都市フチネに向かっていた。
アメージュ川ほとりから出発して2日が経つ。
川に沿って下り、まずはフチネとの中間に位置するエリーナを目指す。
今日の昼はゼンが釣った魚を食べて過ごす。
ゼンが少し席を外して戻ってくると、川のほとりで、フィーナが水面に映る自分に向かって、何やら真剣な顔で構えをとっていた。
腰をひねり、勢いよく上半身を回転させるポーズを確認するように、何度もまわす。
やがて架空の敵と対峙するように演技が始まる。
「やるわね、この技を出させるなんて…!……『ホーリー・エターナル……えっと…やっぱりバースト』…!!」
ドヤ顔で両手を突き出したその瞬間、背後から。
「な…なにやってんだ…お前」
「っぃぃぃやああああああ!!!!!?????」
顔を真っ赤にし飛び上がって振り返るフィーナ。
「ちょ…ちょっと!見ないでよ!いつからいたの!?」
「いや、ホーリーなんとかのあたりから……」
「ほぼ最初からじゃん!!最悪!!あぁ…もう!!」
恥ずかしさのあまりのたうち回るフィーナを、ゼンは心底哀れむような、あるいは未知の生物を見るような目で呆れた。
フィーナは開き直って、涙目でめいっぱい胸を張る。
「漫画とかにはかっこいい名前いっぱい出てくるじゃん!私の技は可愛い名前つけた方がイメージしやすいかなって……!」
「アホかお前は!!」
まずは早く禍動(かどう)を勉強するところからだと難しい顔で叱るゼンだが、フィーナはフィーナで形から入らないと覚えられないとムキになる。
「だからと言って技名を言う必要ないだろ?」
「いるよ絶対!!でもなぁ…」
なにか難しい顔で悩むフィーナ
「うーん…うーん…」
「どうした?」
とゼンは先生の顔で声をかける
「いや、この技の名前なんだけどね…『ホーリーエターナル』か『ホーリーバースト』のどっちがいいかな?って…」
「え?」
ゼンが理解ができない顔をする
「私的には『エターナル』の方が響きが可愛いんだけどね、強くなさそうだからあんまりこの技のイメージが難しいからたしかに『バースト』かなぁって」
「アホかお前は!!!!」
と再び突っ込むゼン。ゼンは言う。
「いいか?技の名前なんてつけるな!てかつけてもいいことなんてない」
「え?なんで!?本とかにはかっこいい名前いっぱい出てくるじゃん!」
意地を張るフィーナにゼンは呆れながら教えを説く。
「あのなぁ、あれは漫画とか伝記だろ?そりゃかっこいい名前とかにしないとウケないから書いてるだけで…」
ゼンは気の毒そうに重ねて言った。
「本当の敵との実戦で名前呼ぶ暇はないし、そんなの呼んでたら敵に攻撃を読まれるだけだろ?」
「あ……たしかに……」
◆
文字通り青空教室がはじまる。
「まず禍動(かどう)だがこれは言葉通り『禍(わざわい)』の動きと書く。
フィーナにもわかりやすい言葉を使えば、"なにか敵にとって嫌なことをするための力"と覚えておけ」
更に続けるゼン
「禍動はその禍(わざわい)でなにか能力を作ったら終わりじゃない。それを使えるようになって、初めて意味がある。」
そして地面にへたくそな文字を書くゼン。
━━━━━━━━━━━━━━━
①禍力(かりょく)=敵に禍動で作ったイメージ物で攻撃する
②纏禍(てんか)=素手や、持っている武器の威力を底上げして攻撃力をと同時に防御力も上げる
③回禍(かいか)=禍を回転させて回復をさせる力
━━━━━━━━━━━━━━━
「とりあえずこれが2年生までに習ったことだが………その顔を見ると覚えてないな?」
フィーナは笑って誤魔化すも、回禍(かいか)について興味を持った。
「回禍(かいか)っていいね!私に向いてそう!」
ゼンは真剣な顔で答えた。
ーー 回禍(回禍)、禍(わざわい)を回して福とする
と言う意味らしい。
「もちろん回禍(かいか)も大事だ。しかし、戦いにおいてはすべてが大事なんだ。逃げる時にケイミューっていうヒゲの騎士と戦ったろ?」
「あの時は纒禍(てんか)がなかったら死んでいたし、自分でも回禍(かいか)をしてようやく傷が癒えてきたからな。」
「フィーナを背負ってここまで来れたのは纒禍(てんか)で肉体強化をしたからだが、禍動(かどう)の消費が激しい…これはゆっくり学ぼう」
フィーナは禍動(かどう)を増やせないの?と聞くがこればかりは才能によるとこが大きいと説くゼン。
「しかし、少しずつ伸ばすことは出来るから安心しろ」
少し俯くフィーナにゼンは続ける。
「とにかくこの基本は全て平均並に使えないとダメなんだ。そしてとにかく『イメージ』と、考えながら戦う『瞬発力』だ。いいな?」
「うん…そうだね…頑張って覚えるよ」
少し納得感がなさそうなフィーナだったが、ゼンは単に不安なんだろうと思い「その意気だ」と鼓舞する。
◆
その後は歩きながらイメージの練習に励む2人だったが異変が起きる。
「……いる……」
(魔族…いや、魔獣か)
現れたのはカエルの顔をした二足歩行の魔獣だった。
「え、ちょっとキモいけど、目が可愛いじゃん♡」
「アホか!学校の時みたいに俺の背中にいろ」
ゼンのコンディションがまだ万全とは言えない、
そして厄介なのが茂みが揺れる音がどんどんと多くなる。
敵の数およそ100体 ーー
「囲まれたな……」
ゼンに微かな戦慄が走った。
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