戦闘力百万。
平均的な戦士の戦闘力が一という世界なら、誰が相手でも無双できる――主人公のルインも、そう信じていました。
ところが、この世界では、あらゆるものの戦闘力が毎週二倍になっていく。
自分は何も弱くなっていない。それなのに、「最強」の価値だけが少しずつ目減りしていく。
この発想だけでも十分に面白いのですが、本作の魅力はそれだけではありません。
ルインは、高潔な使命感に燃える勇者ではありません。
最強でいたい。
美女にちやほやされたい。
伝説の勇者として称えられたい。
そんな欲望を隠そうともせず、迫りくるインフレに必死で抗います。
道場へ通い、怪しい薬に期待し、思いついた作戦を全力で実行する。
その発想はどこかずれていて、本人はいつでも大真面目なのに、読者から見ると笑わずにはいられません。
長すぎるドラゴンの名前、毎週変化していく称号、テンポの良いツッコミ。
一つのネタを繰り返すのではなく、物語が進むたびに新たな形へ発展していくため、次は何が起こるのかと期待しながら読み進められます。
そして、この作品が好きになった一番の理由は、ルインという主人公でした。
見栄っ張りで、欲深くて、格好をつけたがる。
けれど、誰かが本気で困っている時には放っておけない。
本人は自分のために動いているつもりでも、その行動が少しずつ仲間の背中を押し、周囲の人々を前へ進ませていきます。
立派な理想を語るわけではありません。
それでも、何気ない言葉や行動の端々から、彼の人の良さと不器用な優しさがにじみ出ている。
圧倒的に強いのに、どこか情けない。
欲深いのに、どうしても憎めない。
そんな人間臭さがあるからこそ、気づけば「頑張れ」とルインを応援している自分がいました。
笑いを大切にしながらも、読み進めるほど登場人物たちの思いや関係性に厚みが増していくのも、本作の大きな魅力です。
それぞれが自分なりの形で「強さ」と向き合い、新しい道を探し始める。
そして、自分が最強であり続けることしか考えていないはずのルインが、知らず知らずのうちに、その変化の中心となっていく。
だからこそ、私はこの作品を、単なるギャグ作品とは呼びたくありません。
思い切り笑えて、登場人物を好きになれて、物語の奥にある温かさにも触れられる。
読み終えれば、次の一週が待ち遠しくなる物語です。
毎週二倍になる世界で、「最強」はどこまで通用するのか。
そしてルインは、このとんでもないインフレ世界をどう生き抜いていくのか。
笑って、応援して、気づけば続きを待ち望んでいる。
このインフレファンタジー、刮目せよ!