第23話 ”裏宮殿と、箱庭の地図”

 そんなこんなで無事準備を終えて当日。王都中で祭りが催され、人々の楽し気なざわめきが満ちる中。

 招待客でにぎわう宮殿の表とは対照的に閑散とした裏口。敷地内にうっそうと茂った木々を超え、チンピラ顔の手引きで裏口から入ると、引き渡しのための受付が地下にわざわざ用意されていた。


「こいつでさ」


 差し出された金属製の割符。それを受け取った執事然とした男性はルナリス(偽)を一瞥すると、奥へと一度引っ込む。しばらくして、屈強な男2人を連れて戻ってきた。


「代金は後日、落札額に応じて支払われる。帰って良し。お前はついてきなさい」


 身を隠したルナリスが一緒にいる事には気が付かれた様子もなく、偽物のルナリス金髪猫獣人バージョンを奥へ連れて行く。


 すでにこの地下に案内されている客もいるらしい。

 あっちの方からはなんだか甘ったるい匂いがする。その上、絶対に近寄りたくない、くぐもった嬌声。


 逆の薄暗い通路の先を覗けば、美しく着飾らされた獣人の女の子達……に紛れて、可愛らしい男の子も何人か、首に枷を嵌められ、牢の中に閉じ込められている。”商品”に傷をつけないためか、一応床にはカーペットがしかれ、椅子に座らされている。


 高位聖職者の宮殿が聞いてあきれる惨状。


 ルナリスに見せたい風景ではないけれど、今日のために創造した、いつものとは違う髪飾りに偽装した魔導映写機で記録していく。


「ねえ、紗雪。これ、中の人間ごと、まっ平に潰した方が、世のため人のためじゃない?」


「貴族もどきと聖職者もどきだけならいいけれど、雇われの人達に、なにより捕まえられてきただけの獣人や亜人の人達がいるでしょう?」


「むう。あの古代魔法の知識を得た重力の魔法の改良版魔導具なら、いけると思ったんだけどな」


 元の魔法の劣化をごまかすため魔力消費が跳ね上がり、常人には到底扱えない代物となった『消える全身ローブ』。

 黒ドレスに念のため銀狼の耳尻尾をつけたルナリスはそれを纏い、巡回するレヴェロ枢機卿の私兵に見つかることなく、宮殿地下の探索を進めていた。


「上はさぞ華やかなパーティーが開催されているのでしょうね」

「ナオ、参加したかったの?」

「ううん。でも、見たことが無い料理があったら、2人に創ってあげたいな~って」


「むしろ、ナオが楽しめるお食事を、ルナリスに持って帰ってきて欲しいくらいなのだけれど」

「私は良いよ~。興味ないし」

「またそんなこと言って」


 生誕祭の日。午前は儀式、午後は民衆の祭り。そして夜は貴族たちが挨拶回りとパーティーの梯子で夜通し屋敷を行き来する慣例らしい。気ぜわしいことよね。


「オークションの乱痴気騒ぎを魔導映写機で撮影してばらまく。それしか思いつかないけど、対抗勢力が弱い現状じゃ決め手に欠けるよね」


「ええ。ご令嬢方まで知る公然の秘密となれば尚更ね」


 枢機卿の失脚が無理でも、権力の壁を剥ぎ取り、直接刃を喉元に突き立てる。

 稚拙だけど、私達にはこの作戦しか思いつかなかった。


 聖女ラウラを利用して政敵を潰した今、レヴェロ派閥は一強状態。国王も逆らえず、教皇すら彼の傀儡。あの好々爺然とした教皇もこの地下催しの常連だという噂をご令嬢型も語ったくらいだし、何か致命的な情報でも見つかれば御の字なんだけど。


「教皇も、骨抜きにされているなんて、思いもしなかったよね」

「そうね。夜中すぎからはこの宮殿に毎年入り浸っているって、もう露骨よね」

「挨拶回りをそそくさと済ませて、後はここで乱痴気騒ぎをお愉しみ」

「この前の大聖堂奥の居住空間、あそこに何人も美麗な獣人娘を囲っているっていう噂もあったわね」


 紗雪と二人、ため息交じりに顔を見合わせる。


「「ないわー」」


 初めて聞いた時も思ったけれど、聖王国の腐敗はどこまで根深い事やら。


「広い……です」


 人の声がする方や怪しげな部屋を探る事しばし。ルナリスもさすがの広さに、ぽつりと一言。


「ナオの作ったマントで誰にも見えないのはいいけれど、このままだと効率が悪いわね。地図が手に入っていればよかったのだけれど」


 地図、うーん。見取り図みたいなものはもちろん、大図書館に主要施設の建設図面みたいなものはやっぱりなかった。


「できるかわからないけれど……」


 踊る踊る、私の魔法。お人形のための創造の魔法。

 魔石煌めく星の如き煌きに照らされて、紗雪と私、二人の前に、浮かび上がる光の線。

 無数の小さな魔法の光球が、縦横無尽に宙を走り回り、線を描き出す。


「ん、やっぱり難しい……」

「これは、この宮殿?」


 徐々に出来上がってきた輪郭は、今潜入しているレヴェロ枢機卿の宮殿の外観。

 事前偵察で外からは何度もしっかり観察したから、ここまでは何とか出来た。


 あとは、学び始めた古代魔法の”マナの波”の性質を使って、ルナリスを中心にあたりを探る。

 大図書館で学んだ知識を私は、『古代魔法』って呼ぶことにしたの。だって、現代では失われた魔術理論ですもの。

 歌にマナを乗せるのと同じ、その応用。見つかっちゃうから、歌は使えない。


 やがて出来上がったのは宮殿の模型。ルナリスが今いる場所を中心に地下部分の四分の一も網羅していないくらいの中途半端なものだけれど、目には見えないお部屋の輪郭とかが一応わかる。見えている場所は小さな家具の模型までしっかりと再現している、まさにお人形用のミニチュア宮殿。


「進みながら、時々これを繰り返せば、立体的な図面代わりの模型ができると思うの」

「すごい。作りもとても精巧で、可愛い!」


 紗雪が目を輝かせて模型、ドールハウスを眺めてる。


「宮殿は大きすぎるから小さくしちゃったけれど、三分の一の大きさの素敵な建物とか作って、2人の本体と遊ぶのも面白そうだね♪」 

「ぅ、それまだあきらめてなかったんだ?」

「もっちろん! お城とか~、歌劇場とか~、あ、天象儀なんかもいいかも。2人が本体で優雅に過ごす様子を魔導映写機で……うふふふふ」


 呆れ半分、楽しみ半分な様子でそんな妄想にふける私を見つめる紗雪。


「ナオ? 今はそれくらいに、ね」 

「あ、ごめんごめん。んと、これで見ると……ルナリス、今通りすぎた部屋、その中から行ける隠し部屋か、通路がありそう。多分、クローゼットの中から後ろに繋がってる」


 ルナリスの移動に合わせて定期的に魔力での探査と創造を繰り返す事で、少しづつドールハウスの出来上がった領域も広がっていく。そうして、この宮殿には隠された部屋や通路がかなり仕込まれていることが分かってきたの。もっと言えば、表に見えている通路や部屋と裏表の関係のように、裏に丸ごともう一つ宮殿があるみたいな、通路と部屋が複雑に作り込まれている。そんな二重構造。まるで裏宮殿。


「うわぁ、あれ、教皇と聖女サリアじゃない?!」

「これはもう、開いた口が塞がらないわね」


 普段は露出の抑えられた聖衣をまとった、母性的なプラチナブロンドヘアの淑女。それが、香の焚きしめられたお部屋で、扇情的な薄ピンク色のネグリジェで教皇にしなだれかかり、お酒を酌み交わしている。


 他にもこの裏宮殿側の個室では、式典などで見覚えのある枢機卿や大司教。襲撃を受けた夜会に集っていた貴族が、首に枷を嵌められた獣人の女の子と……。


「表の乱痴気騒ぎすら隠れ蓑で、高位の権力者はこっちで接待っていうわけ」

「ナオの教育に悪い……」

「え、ちょっと~それどういう事!」


 うん、まあ……でも、くんずほぐれつするなら、私は紗雪とルナリス以外考えられないから。安心してね? 嫌悪感交じりに共有される視界をしっかりと確認している紗雪の、後ろから首筋に、ちゅっ。


「ふやん!?」


 えへへ~。紗雪ったら、可愛い悲鳴上げちゃって♪

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