第21話 ”古代魔法と、魔法実験の代償“
「ごろごろ、ごろごろ~」
えへへ~気持ちいぃ~。
あ、あ、そこ、ふわってしてなんか変な気分になっちゃう。
やぁ~ん。
「ナオ? 何をしてるの、もう」
ルナリスの繊細な指先が優しく私の黒髪を撫でて、こしょこしょって首元をフェザータッチする。ほっぺたに感じる、もっちりとした柔らかさのある至福の肌触りのお膝。そう、私はルナリスに膝枕をしてもらいながら、なでなでタイムを満喫しているのです!
どやぁ。
「……」
「えへへ~。ルナリスぅ」
お膝から見上げる視界に蒼銀の瞳が……見えないねぇ!? 私と同じで、大きすぎるとは決して言えないけれど確かなふくらみを主張する柔らかな双球が、視界にふにょんふにょんと柔らかく弾んでる。思わず、つんつんってした後、下から支えちゃう。
「そろそろまじめに、ね? そのままでもいいから」
「むぅ、だって、ルナリスが、ルナリスがぁ。愛おしすぎるよあんな、あんなぁ」
全てを失う瀬戸際で、大切に残してくれた一滴の心。それが、私への想いだっただなんて。
あぁん、もう、言葉にならないよぅ。
言葉もなく、甘える私をあやし続けてくれる、銀の髪の美しい少女人形。
「わかったわかった。そのままでいいから、聞いてね? ナオが創った”鑑定片眼鏡”で見たけれど、聖遺物の複製として渡されたティアラは、確かにルナリスの心の核を内包したものの複製で間違いなさそう。あくまで、その複製だけれどね? 微弱な『時空の魔法』の痕跡が内包されていたわ」
「複製に魂は宿らないからな~……書類の方は?」
「魔法契約書ね、それも最上級の。普通の、魔力を籠めた署名や拇印で済ませるのではなくて、契約書自体を血で染め上げるタイプ」
「うへ」
流血ドバドバの契約書じゃない。昔、悪魔召喚儀式とか、神への制約の儀式なんかで使われたものだね。市井には決して出回らないタイプ。心の核そのものまでをも魔法的に縛る契約。まあ、聖浄心教教会なら、教皇騎士団とか秘儀に関わる人達の神への宣誓に今も使われてるだろうから、あるか。
「それで、書面の内よ、ぅひゃん♪」
ルナリスがお胸もんだぁ。私がもみもみしていたから、真似たのかな。
あ、紗雪がちょっとジト目になってる。でも、気にしない事にしたみたいね、何もなかったみたいに、
「『創造の魔法』を宿す者をゼノン枢機卿に引き渡す事」
「ん? 聖浄心教教会に、じゃないんだ?」
「そうね、そうなってるわ。そして、ルナリスがその者との関連性を放棄する事。いかなる接触も禁じられる。これは、間接的な依頼による庇護なども含む」
「ん゛ぁ゛?」
思わず可愛くない声が出ちゃった。なに、私とルナリスを引き離そうとする条件だって事?
「見返りは?」
「聖遺物のティアラの使用権利を与える。なお、損傷や機能の変化の責を問わない。要するに、心の核の欠片を1つ返すっていう事ね。そして、条件に反しない限り、ルナリスの行動の自由の保証」
湧き上がる怒りを、深呼吸してルナリスの香りを堪能する事で必死に抑える私。
「盗人猛々しいにも程があるわね」
「まあ、受けるわけがないわよね」
「紗雪の事は?」
「何も書かれていないわ」
紗雪だって私の心の核の一部を保有してる。そのあたりの事はわかっていなくて、『創造の魔法』に関心があるだけ? そもそもルナリスの心の核との関係性も分かっていない?
それなら、少なくともママが何かをされて、情報を奪われたという事はなさそう。
「どう戦うかを考えるにしても、情報が欲しいかな」
「でも、私達に教会内部で使える伝手は限られているわよ? 冒険者ギルドだって、この何年もで、こっち方面の情報や伝手に弱い事はわかってるし」
紗雪の言う通り、武力もあるし、結束力も意外と高いのだけれど、冒険者ギルドはどうしても政治的な力がこの聖王国では低い。
「治療に恩義を感じてくれている人たち、お茶会のご婦人ご令嬢方。どれも今回の目的には弱い気がするわね」
「ルナリスにくる依頼を地道にこなしつつ、大図書館の情報を精査かなぁ」
というわけで、それからの毎日はまた依頼をこなしては大図書館の書物を複製。
あまり悠長にしていて、向こうからいつ仕掛けられるかもわからないのは嫌なので、ルナリスにもこの部屋にできるだけ来てもらって、私はルナリスと同調した視界で書物の分類と精査を始めたの。
え、暇になる私の身体? 交互に2人を後ろから抱きしめて、支えるのがお仕事よ!
「ねえ、禁書庫ってさ……」
「ナオ、それを言ってはいけないわ……」
「あ、はい」
大図書館50階、禁書庫。歴代聖女もほとんど立ち入りが許されず、『叡智の魔法』の系譜にある聖女と司書くらいしか入ることが許されないそこ。
人目のない時を選んで複製してきたそこの本の大半は、聖浄心教が禁じる不義の恋、ふしだらな行い等を綴った物語が半分。要するに、1対1の異性愛以外の全てね……。そしてもう半分が、歴代教皇や枢機卿、お偉いさんの不祥事の記録とか、そんな物がごろごろ……。まさに、教会の恥部保管庫と言った方がよさそうな場所だったの。
しかも、現代のものはここにはなかったわ。いわゆる、隠しておきたい過去の恥部。
「私達が求めるような記録はやっぱり、大図書館ではないどこか。経理書類とかそういう機密文書の保管庫が別にあるのかな」
「そもそも、ナオにも私にも、政治的な動きは出来ないから、その方向は諦めた方がよさそうね」
「それなら~……創造の魔法でできる事を広げる新しい知識を求めて、51階層以上のご本を調べる? うん、そうしよう」
こっちは正直興味ある本が多すぎて、逆に手が付けられずにいたの。
今では失伝している魔法の使い方。この世界の原理。
「たとえば『重力の魔法』。古代魔法の本で学んだ知識を使えば、魔石も使わずに強力な魔導具が創れちゃうの」
紗雪を後ろから抱きしめたまま、自分のマナで黒い宝石型の魔導具を創造する。
「マナの『波』や『場』を制御する古代の理論を取り入れたの。……って、人形用だから私には使えないんだった」
お耳が赤くなるのを感じながら、お膝の上の紗雪に渡す。
「マナを籠めればいいのね?」
そうして、紗雪がマナを籠めたとたん。
ズンッ!!
「ぎゅむっ」
可愛くない声が出て、私は意識を失った。
――「反省するまで抱っこ禁止!」
目が覚めた時には、荒れたお部屋を片付けてくれた紗雪に、『めっ』されちゃった。
古代魔法の理論で創った重力の魔導具は威力が絶大すぎた。
即座に紗雪が止めてくれたからよかったものの、危うく全身骨折するところだったとか。
「ふぇぇ……抱っこ禁止なんて……反省するからぁ」
でも、大図書館で得た古代魔法の知識は今後の大きな武器になる。
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