第11話 ”秘密の花園と、お茶会の裏事情”

 貴族子女のお茶会……めんどくちゃい。


 誰が良いダメといった噂話や、美容魔法の話題ばかり。

 ルナリスの肌や髪のお手入れを聞きたがられるのには参ったわ。毎朝毎晩、私が丁寧に梳いて整えているし、そもそも超希少素材でできている上『時空の魔法』で傷を消しているのだから、美しいのは当たり前。


 それですら消せない傷を負うようなことがあれば、ボディまるごと交換しているしね? まあ、そのあたりのお話しはまたいつか機会があれば、ね……ない方が良いのだけれど。



「紗雪、香水使ってみたい?」

「ナオが嗅ぎたいなら?」

「んー……」


 興味がないって言ったら嘘になるかも。でも、自然なほんのり甘い紗雪の香りが好きだからな~。


「やっぱりいらない」

「私も、ナオの自然な香りが好きよ」


 すんすんって、首筋にちょっと冷たい鼻先の感触。

 吐息がこしょばゆいよぅ。



 とつとつと語られる聖女ルナリスの武勇伝に「キャーキャー」言ってくれているうちはいいのだけれど。


 それに、良い事はするものよね。旦那さんや息子さんの『心の核』、不治の病につながる傷を癒した聖女ルナリスへの信頼と好意は天井知らず。中にはもちろん不仲なお相手を治療された、なんていう事もあるかもしれないけれど、そういう方はこの段階ではお誘いも送ってきていなかったしね。


 さすがに功績を積み上げ続ける聖女にして、名高い特級冒険者でもある”銀の姫”に、いきなり敵対する愚か者はいなかったわ。



 そんなこんなで、依頼の合間に退屈なお茶会を過ごすことまた1週間と少し。


 話題になっていたのは、しきりにルナリスに言い寄ろうとする軽薄な金髪ボンボン男カイル・レヴェロ。

 一夫一妻が絶対の聖王国において、あちこち粉をかける彼はご婦人方から不評を買っていた。


「あんなにご立派な枢機卿猊下たるお爺様の血筋が……」

「あら。あれのお父君は……」

「なに……か、あった……のですか?」


 私の興味を感じルナリスが問いかけると、一瞬の静寂の後にご婦人方の目が語り合う。


「時に、聖女ルナリス様? ”夜咲きの華”等の稀覯本に関心はおありかしら。明日のお茶会にお越しにならない?」


 と、あれよあれよと明日の予定が決まるのでした。


 翌日知ったのだけれど、”夜咲きの華”は女性同士の官能的な禁書。

 勿論しっかり複製して、情感たっぷりに音読してもらった紗雪が真っ赤になるのを眺めるのは至福だったよ?


 で、そんなイケナイご本の交換会に紛れて、公の場では囁けないお話も聞けるわけで。


 曰く、カイルの父親セドリックは極悪人で破門されている。

 曰く、レヴェロ公爵家には裏の家業がある。

 曰く、かつて枢機卿の座を巡りゼノン枢機卿と、聖女ラウラの父アーネスト・ヴァール伯爵は争い、ヴァール伯爵は不審な馬車事故で亡くなった。


「要するに、レヴェロ枢機卿一派はかなりきな臭いって事ね」


 紗雪と私で情報を整理する。

 問題がありそうなのはわかるけれど、それならなぜわざわざルナリスを引き入れる?

 わからない事だらけ。


「うぅぅ」


 知恵熱を出しそうになっている私を、心配そうに見ている紗雪。ルナリスも、つられてだと思うけれど心なしかいつもよりも私を見つめる視線が柔らかい気がする。


 この前創造した、お部屋着ドレスに着替えた2人を見つめて。

 聖女サリア……理の魔法……よし。くよくよわからないって悩んでるより、やってみるだけやってみよう♪


 魔力が巡る、淡い光が立ち上る。

 物事の理を見抜く瞳、世界の真実を紐解く……、そういえば、助けた獣人の子達、元気にしてるかな。

 狐耳尻尾の子、可愛かったな~。


「……ぁ」


 漂っていた光の球が、形を成す。ふよふよ、ふわふわ、漂う光が塊にまとまる。

 ぽふん。

 そんな、気の抜けた音がして。


「あぃた」


 頭の上に落っこちてきたのは柔らかいけれど、ちょっと重みで頭が痛い……、


「ナオ? ぬいぐるみなんて創造してどうしたの?」

「……?」


 あまりに脈絡が無さすぎて、ルナリスまで不思議そうな顔で見てる気がするぅ~。


 やっちゃった。

 そもそも、原理も効果も不明な『理の魔法』。なんだかいろいろできてそうで便利だな、と漠然と思いながら創造を試したけれど、私がはっきりと創造するに足るイメージができていなかった。それだけでも、どうせ失敗するに決まっていたのだけれど。


「助けた狐獣人の女の子の事を思い出しちゃって」


 うん、イメージがそっちに流されて、創造しちゃったのは、2匹の狐のぬいぐるみさん。

 デフォルメされた可愛い、ふっかふかのぬいぐるみ。


 2人がそっと手元のぬいぐるみを抱き寄せる。


「あ、この子、ふかふかで気持ちいいかも」

「……ぎゅー」


 ぎゅっぎゅ、もふもふって、2人そろって抱きしめたり、顎を乗せてみたり。

 気に入ってくれたなら、いっか……。


 もしかしたら実は天才な私は『理の魔法』の魔導具化に成功していた!? なんて思って、疑問に思っていることをぬいぐるみの狐さんに、紗雪に聞いてみてもらったけれど当然反応なんてなく。

 ただの可愛いだけのぬいぐるみさんでした。



「こうなったら最後の手段よ!」


 じゃじゃーんっと、ひらひらかざす1枚の封書。


「お誘いもある事だし。ね? 下心見え見えの男の誘いに、ルナリスを行かせるのは業腹だけど」


 それは来月開催される、夜会の招待状。金髪ボンボン男名義で依頼書に紛れて送られてきていたもの。

 名目は聖女サリアの快復祝い。主催はゼノン・レヴェロ枢機卿。

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