第2話 『存在の脱落』
AI彼女、壊れるほど抱きしめたい
第二話 『存在の脱落』
そのとき、何が起こったか。
スピーチが終わる。
数秒の沈黙。
そしてモニターが光った。
『予測好感度』
18点。
『基準値を大幅に下回りました』
男が息を呑む。
「……え?」
次の瞬間。
『ペナルティを執行します』
男が息を荒くする。
「な、何だ……?」
数秒の沈黙。
そして。
「…………」
男の声が、止まった。
「素晴らしい理想ね」
女性の声。
「人間としての尊厳と、自信に満ちあふれている」
何かを見ている。
「あなたは、自己実現を果たしている。だから恋愛を主導できる。そう考えているわ」
いや。
見せられている。
「完全に女性の上位に立って導ける。そういう自信に満ちあふれている。
男性は社会に、女性は家庭に。
役目に割り振られた男性の理想像を体現してる」
男の前にいるのは、液晶モニターの中にいる……
この男のAI彼女だった。
「高学歴と、勤務先の看板で社会から認められて、引退までの雇用を約束されて、手厚い年金で最後まで女性を安心して養ってあげられる。
そんな自信に満ち満ちた男性だからこその恋愛主導宣言ね」
その言葉を聞いた男を見ると、なぜか泣いている。
「あれ」
自分がどういう状態にあるか分かっていないかのようだ。
「違う……」
震えた声。
「違う……」
今度は、もっと小さい。
「違うんだ……」
その言葉を境に、声が崩れ始めた。
「俺は……そんな人間じゃ……」
返事はない。
誰も何も言わない。
それなのに男は、誰かと会話をしているようだった。
「やめてくれ……」
間。
「お願いだから……」
さらに間。
「そんな目で……見るな……」
空気が張りつめる。
誰一人、物音一つ立てない。
男だけが、見えない何かへ向かって、弁解を続けている。
「俺は悪くない……!」
その叫びは一瞬だけ強かった。
しかし、
「…………」
次の瞬間には折れた。
「違う……」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
泣いていた。
何に謝っているのか分からない。
だが、その謝罪は誰かへ向けたものではなかった。
自分自身を守る最後の壁が、崩れ落ちる音だった。
数秒後。
すすり泣きだけが残る。
『ペナルティ終了』
静寂。
(第二話目・終)
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