歴史の“空白”に置き去りにされた青年が、怪物たちの思惑に翻弄されながらも必死に人を求め続ける姿が胸に刺さる。義栄は強者でも英雄でもなく、ただ孤独を埋めたいだけの若者だ。その弱さが、乱世の濁流の中で逆に強烈な輪郭を持ち始める。長慶や久秀の言葉が彼の心を削り、将軍という器の美しさと脆さが同時に浮かび上がる構成が巧い。信長の焔に焼かれてなお、人の温もりを求める手だけは折れない。その一点が、読後に静かな救いとして残る。歴史の隙間に潜む“人間”を描き切った重厚な一作。