人気スペースオペラやピカレスクロマンのアニメを思わせるような、軽妙かつ魅力的なキャラクターたち。
古びた宇宙船。気心の知れた相棒。船載AI。銀河を股にかけ、要人護衛から街の清掃まで何でも引き受ける便利屋稼業。
いいですね。
こういうの、おじさん大好きです。
特に好きだったのが、この作品の「におい」です。
新たな星の宇宙港に降り立ったとき、まずその星のにおいがする。
水の惑星ヴェルデなら、海のにおい。そこから魚の焼けるにおいや香草、人々の声、街の喧騒へと世界が広がっていく。
こういう描写には、古き良きアシモフの「ロボット」シリーズを思わせるような情緒を感じました。
宇宙船の中もそうです。
コーヒーのにおい。配管の低い唸り。冷却装置や古びた機械が立てる音。
読んでいると、≪ホーム≫の背景でずっと「ゴウン、ゴウン……」と何かが鳴っているような気がしてきます。
宇宙を舞台にしているのに、描かれているのは「宇宙」だけではない。
宇宙で暮らしている。
そんな生活感があるんです。
そして文章がとても読みやすい。
癖のない文章でスルスル読める一方、時々ものすごく映像的な一文が飛び込んできます。
特に好きだったのが、追跡劇の最中。
その代わり、後ろの黒服が屋台へ突っ込んだ。
魚が一匹、景気よく宙を舞う。
ここ、最高でした。
映画だったら絶対、一瞬だけスローになるやつです。
黒服が屋台に突っ込み、ガシャーン! と派手な音がして、その真ん中を魚が一匹くるくる回りながら飛んでいく。
全部を細かく描写していないのに、ものすごく絵が浮かびました。
会話もいい。
エミリオ、チャップ、ロピーの掛け合いは軽妙で、ちょっと古い洋画や海外ドラマのようなウィットがあります。
危機的状況でも軽口を叩く。
相棒が真顔で返す。
そこへAIが妙に冷静な一言を差し込む。
読みながら何度か、
「これだよ、これ!」
とつぶやいていました。
作者さん、こういうスペースオペラ好きなんだろうなあ。
楽しんで書いてるんだろうなあ。
勝手ながら、そんなことまで感じました。
なので。
ここから先については、先に謝っておきます。
申し訳ありません。厄介オタクに絡まれたと思ってください。
ねえ、この世界のワープ航法の名前は?
何ドライブ?
何航法?
何ジャンプ?
ねえねえ! 教えてよ!!
……失礼しました。
いや、半分は完全に私の趣味です。
SFに出てくる「なんたらドライブ」とか「なんたら航法」とか、大好きなんです。
ただ、残り半分は割と本気です。
ワープ航法の名前や原理って、そのSF世界がどのあたりに立っているのかを、ものすごく端的に教えてくれる情報だと思うんです。
量子論っぽい名前が付いていれば「サイエンス」寄りなのかなと思う。
「ハイパードライブ」くらいなら、なるほど、細かい理屈よりスペースオペラとして楽しめばいいんだな、と分かる。
スターゲート方式なら、今度は星間交通や政治、物流まで想像できます。
細かな科学解説が欲しいわけではありません。
ただ、この世界の人たちが当たり前のように使っている技術に、名前が欲しい。
同じ理由で、船名も個人的には、
「ホーム」
ではなく、
≪ホーム≫
と書いてほしい。
……面倒くさいですね、この読者。
自覚はあります。
さて。
ここからは、もう少し真面目な改善案を。
EP10まで読んで、最初に少し気になったのが主人公のエミリオです。
実は私、序盤ではチャップが主人公だと思っていました。
「ずいぶんゴツい主人公だな……」
と思いながら読んでいました。
チャップは、大柄な体格、古傷、元軍人を思わせる雰囲気など、登場直後から姿がはっきり見えます。
一方、エミリオは性格こそすぐ分かるものの、年齢や外見についての情報がかなり少ない。
しかも序盤では、寝坊する、煙草を吸いたがる、飯を食いたがる。それをチャップが止める。
なので私は、エミリオを賑やかし担当くらいに思っていたんです。
ところが読み進めると印象が変わりました。
危険な場面では判断が早く、普段のおちゃらけた態度から一転して、締めるところは締める。
なるほど。
ルパン三世やスパイク・スピーゲル型の主人公なのか。
ここが分かってからは、エミリオがかなり魅力的に見えるようになりました。
だからこそ、その「主人公ですよ」というサインを、第一話でもう一つだけ置いてもいい気がします。
たとえばロピーに、
「この船の使用者はエミリオ、あなたなのですよ」
とでも言わせる。
それだけでも、「あ、エミリオがこの一行の中心なんだ」と読者のカメラを誘導できると思います。
「所有者」ではなく「使用者」。
もしかすると≪ホーム≫、まだローン残ってるかもしれませんし。
そういう宇宙船ローンの生活感、私は大好きです。
もう一点。
エミリオとチャップは、性格や役割はかなり違うのですが、二人の「声」が少し似ています。
短いやり取りが続くと、時々「今どっちが喋った?」となりました。
ここは、すでにある二人の性格差を、もう少し台詞にも反映するとさらに良くなると思います。
たとえば、
エミリオは一言多い。
チャップは一言少ない。
これくらいでもかなり違うはずです。
エミリオは冗談や比喩や余計な一言まで喋る。
チャップは「仕事が先だ」「やめとけ」「行くぞ」と短く切る。
そうすると二人の声が分かれるだけでなく、普段よく喋るエミリオが本気になった瞬間、
「……チャップ」
「ああ」
だけで通じる。
そんな演出まで使えるようになります。
そしてEP10あたりまで読んだところで、少しだけ中だるみも感じました。
一つの事件をかなり長いEP数を使って描く構成のようなので、作品そのものを短くする必要はないと思います。
ただ、逃走が続く中で、もう少し状況の優劣を揺らしてもいいのかな、と。
たとえば最初の追っ手くらいは――
会敵。
次の場面。
追っ手が全員伸びている。
ヒロイン、ぽかーん。
エミリオが、
「まあ、昔取った杵柄ってやつ」
チャップが、
「お前は何もしてないだろ」
……くらいでもいいと思います。
この作品、コメディですから。
そこで一度「この二人、普段はこんなんだけど実は強いぞ」と見せてしまう。
ところが次の増援では、戦闘用アンドロイドでも投入される。
「チャップ」
「ああ」
「逃げるぞ」
「そうだな」
これなら、同じ逃走でも一段階ギアが上がります。
もちろんこれは一例です。
ただ、長い事件を描くなら、こうして優勢と劣勢を何度か入れ替えることで、今の軽快な作風を保ったままテンポを作れるんじゃないかなと思いました。
あと細かなところでは、第二話冒頭。
第一話の朝を意図的に繰り返しているのだと思いますが、少し長く感じました。
でも、「ホームの朝は、コーヒーの匂いから始まる」という書き出し自体はものすごく好きなんです。
だったら、朝食シーン全体を繰り返すのではなく、この一文を作品の定型句にしてしまうのも面白いかもしれません。
何度も何度も、
「≪ホーム≫の朝は、コーヒーの匂いから始まる。」
と読者に刷り込む。
そしていつか、本当に大変なことが起きた回の最後。
「その朝、≪ホーム≫にコーヒーの匂いはなかった。」
……とか。
すみません。
また厄介オタクが出てきました。
ここまで好き勝手に書きましたが、EP10までとても楽しく読ませていただきました。
この作品には、最近の作品にはあまり見かけなくなったような、古き良きスペースオペラの匂いがあります。
でも、ただ懐かしいだけではありません。
文章は軽快で読みやすく、会話のテンポもいい。
古い宇宙船でコーヒーを飲み、知らない惑星へ降りればその星の匂いがして、飯を食い、軽口を叩き、面倒事に首を突っ込む。
宇宙の壮大さではなく、
宇宙で暮らす楽しさ。
そこに、この作品の一番の魅力を感じました。
だから最後にもう一度だけ、厄介オタクとして言わせてください。
作者さん。
ワープ航法の名前、教えてください。
待ってます。笑
SFなのにここまで会話劇が心地いいの、すごい発見でした🚀
エミリオとチャップの掛け合い、テンポが軽快で、朝食シーンだけで二人の関係性がスッと伝わってくるのが上手いなと。
「一本だけ」「一本だけだ」みたいな短いやりとりの積み重ねが、十年連れ添った相棒感を自然に出してますよね✨
ロピーの淡々とした返しもいいアクセントで、緊迫した場面でも笑いどころを作ってくれるバランス感覚が心地よかったです😌
追跡劇に入ってからのテンポの良さも気持ちよくて、老人や魚屋の店主みたいな脇役たちが「日常は止まらない」感じを出していて、世界観に厚みが出てました🐟
ルナが二人に振り回されながらも少しずつ心を開いていく過程、そしてラストでチャップの戦う姿を見て「何者なの」と息を呑むシーンで一気に緊張感が上がるのも良かったです⚡