前人未到の遺跡へ
街の北方に佇む、おびただしい数の岩山。その不毛な地帯の奥深くに、新しく発見された古代遺跡の入り口はあった。
大理石で組まれた巨大な門は、半ば地中に埋まりながらも、圧倒的な威厳を放っている。門の表面には、複雑に絡み合う蔦のような模様――いや、未知の古代文字がびっしりと刻まれていた。
「ここが、多くの高ランク冒険者を退けた遺跡ね……」
セリアが周囲の様子を警戒しながら呟く。
門の周辺には、これまでに挑戦した者たちが撤退した際に残していった、壊れた盾や焦げた衣服の破片が散乱していた。物理的な罠だけでなく、強力な防衛魔法が働いているのは明白だった。
「待って、セリア。これ以上は近づかないで」
僕は一歩前に出て、大理石の門を見上げた。
通常の人間が見れば、それはただの不気味な記号の羅列にしか見えないだろう。しかし、僕の翻訳家のスキルが発動した瞬間、その文字たちが淡い光を帯びて脳内で意味を紡ぎ始める。
(これは……警告文だ。でも、悪意で書かれたものじゃない)
刻まれていたのは、このような文章だった。
『大いなる調和の国、その英知を眠らせる。心の通わぬ者、理不尽に力を求める者、この門を潜るべからず。去れ、さもなくば浄化の炎が汝を灰とせん』
現代の魔導師たちは、この文字の意味を理解しようとせず、無理やり魔力を流し込んで扉をこじ開けようとしたのだろう。だから、遺跡の防衛システムであるマナたちが怒り、浄化の炎を放って反撃したのだ。
「アルス、解読できそうなの?」
セリアが心配そうに僕の顔を覗き込む。
「うん、大丈夫。ここにいるマナたちは、ただお留守番のルールを真面目に守っているだけみたいだから」
僕は門の手前に立ち、緊張を解いて、その表面にそっと両手を当てた。
そして、この門を守り続けている古い時代のマナたちに向けて、一番丁寧な言葉を選んで語りかける。
(長い間、ここを守ってくれてありがとう。僕たちは力を奪いに来たわけじゃないんだ。失われた古い言葉を学び、世界と新しく対話をするために来た。僕たちの心を通わせてくれないかな?)
僕が紡いだ古代の文脈に基づいた通訳が、門の奥へと染み込んでいく。
すると、文字の羅列からピキピキと張り詰めた魔力の気配が消え、代わりに懐かしい家族を迎えるかのような、温かい光が溢れ出した。
ゴゴゴゴゴ……と地響きを立てて、数百年もの間、閉ざされていた大理石の門がゆっくりと内側へと開いていく。
「嘘……。本当に、話しかけただけで開いちゃった……」
セリアは信じられないといった様子で、開かれた暗闇の奥を見つめている。
「さあ、行こう。中にいるマナたちも久しぶりのお客さんを歓迎してくれているみたいだ」
かつて誰も足を踏み入れることができなかった前人未到の聖域。
僕たちは一歩、その未知の闇へと足を踏み入れた。
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