第7話

 ゲードは再び、運搬車の荷台に乗って揺られていた。


「装甲車にでも乗りたかった……っすけどね。まさかまた同じ……んと嫌になっちゃうね」


 シャラワンの文句が無線越しに途切れ途切れ聞こえる。ゲードはヘルメットを叩いて、無線の調子を戻そうとした。

 セカリノが、今朝、占いで今日の運勢が最悪だった、とまた不満を漏らしていたことを思い出す。


 ゲードは気が滅入っていた。

 装備で昨日と違う点は、荷台に載せられた特大レーザーカッターのみ。

 これは、カッターナイフの刃のような形をした2メートルほどの装置である。ほぼ全方向に回して標準を合わせることができる構造で、この先から放出されるレーザーは大きな岩を真っ二つにできるような威力であり、ハキャンクラや巨大生物への対策として搭載された。


 今日は助手席にセカリノが座り、荷台にレウラーノがいた。ユウキョは今日もいない。

 ユウキョは風邪をひいたようで、体調不良を訴え、部屋で寝ているということだった。

 昨日、夜に散歩なんてするから、風邪をひいたのだろう。


「あれは……」


 サーチライトで周りを照らしていたレウラーノが、後方へライトを向けた。

 無数の影がわさわさと動いていた。


「シェトパットです。人を襲う生物です!」


 その一つ一つはコウモリのような小型で羽根のある、茶色の生物だった。

 それらが数え切れない群れとなって、こちらへ迫ってきていた。


 ゲードはレーザーピストルを両手に構え、乱射した。

 ジュッと音を立てて、シェトパットが散る。


 一匹が群れから飛び出し、腕に食らいつく。

 ゲードはそれをピストルの底で叩きつける。高く耳をつんざくような声を上げて、シェトパットが飛び去る。

 しかし、もう一匹飛び出したシェトパットが、ゲードの左腕を引っ掻いた。

 鋭い爪が肉に刺さり、出血する。


「ゲード、しゃがんで!」


 レウラーノはレーザーカッターの台座を動かし、後方へ向け、発射した。

 右から左へとレーザーの幕が移動していき、順々に一面のシェトパットが鋭い電気音を立ながら溶けていく。

 レーザーは壁をも焼き、今通ってきた穴は崩れ落ちた。

 レーザーの照射と、降ってきた天井に押しつぶされ、ほとんどのシェトパットは消え失せ、少数残った個体も戦意を失ったようで散り散りになっていった。


「ゲード副隊長、腕を見せてください」

「いいんだ、これくらいの傷」

「ダメです、ちゃんと治療しなくては」


 レウラーノが治療キットを取りだし、腕を見る。

 手際よく消毒をし、包帯を巻いた。


「ありがとう」

「傷口が膿んでしまわないよう、帰ったらもう一度見せてください」


 レウラーノはすぐに座った。


 それからしばらくは道なりに進んでいった。

 しかし、途中で分厚い壁に阻まれ、前に進めなくなった。


「ここで終わりか」


 助手席から降りてきたセカリノが壁を触る。


「……この壁何かおかしいぞ」

「おかしいって?」


 ゲードが荷台から降りたその時、壁がスライドして動き出した。


「何だよ、これ!」


 シャラワンがライフルを壁に向ける。

 壁は左から右へとスライドし続けているが、延々と新しい壁が現れる。


 その壁は、半円のようにこちらに出っ張った形をしていた。

 フロントライトに照らされた壁は、止まることをやめずに、右方向へスライドし続ける。


 そして、急に目の前から消えた。


 前方に道が、そして、壁がスライドしてきた左方向と、壁が吸い込まれていった右方向にも道が現れた。


 一行はしばらく沈黙したまま動けずにいた。

 ゲードは今見た光景を脳内で繰り返し再生していた。


 壁が消え失せる瞬間、視界に映った壁の端はドリルのような形をしているように見えた。

 つまり、今のが昨日話に聞いた、管が根本へ収縮していく道中だったのではないか?

 壁だと思っていたのは、例の管の側面に当たる部分だったのではないか。

 その管が通った部分はまた、新たな横穴となり、それが幾度となく繰り返され、この地下迷宮が作られているのではないだろうか。


「ゲード副隊長、どちらへ進みましょうか」


 レウラーノが聞いた。


「ああ、そうだな」


 今、管が戻っていった方は(それが管だと仮定すると)、裂け目の底へとつながっている。だとすると、反対方向は今の管が掘り進めた先になる。そして、まっすぐ進む道は、以前他の管が進んでいった方向に当たるのだろう。


 裂け目の底へとつながっている道は、非常に興味深い。実際にそうだとするならば、本調査に有益な情報となる。

 しかし、先ほどの壁が管ではなく、別の巨大生物だったりした場合、鉢合わせる可能性もあり、非常に危険だとも考えられる。


 さて、どうしたものか。


「ゲード、とりあえずまっすぐ進むのが無難だとは思うが」


 セカリノが助手席のドアに手をかける。


「そうだな、ではこのまま直進しよう」




 ゲードたちは再び、その穴の奥へと進んでいく。

 周りの壁にはキラキラと光る鉱石が散らばっている。

 急に視界が開けた。


「なんだ、ここは……」


 そこは巨大なホールだった。

 鍾乳洞のように上から、つらら状のものがぶら下がっている。

 ゲードはサーチライトの電源を切った。ほの暗いが、辺りを見渡すことができた。このホールは明るいのだ。


「宝石が光っているんです。そこら中の宝石が」


 レウラーノが天井を見つめたまま言う。

 と、その時、運搬車の前に何か影が飛び出した。

 車体がぐわんと曲がり、急ブレーキがかかった。


 ゲードはその飛び出したものの方を見た。

 それは地面にうずくまる男のようだった。


「誰だ!」


 ゲードはピストルを向けながら叫んだ。

 その男がゆっくりと顔を上げる。

 見覚えのある顔だった。


「お前……」


 レウラーノも横でピストルの標準を合わせる。

 その男はログだった。


「両手を上げてその場から動くな」


 シャラワンとセカリノが車から降りる。

 セカリノがロープを拾うと、シャラワンが手を出す。


「今回は俺が縛る」


 セカリノはシャラワンを睨みつけながらロープを渡した。

 シャラワンはロープを結んだ後、しっかりと、それがほどけないか引っ張って確認した。


「ログ、お前には逮捕状が出ているんだ。おっと、ログは仮の名だったな。ネオーラ・フィボン」


 セカリノがログの前へと歩み出る。


「さて、質問したいことは山ほどあるが、まず最初に、どこから入ってきた?」


 ログが後方を指差す。すると、そちらから一匹のシェトパットが、ログの顔めがけて飛来した。

 ログが倒れ込む。


 曲がり角の奥から、シェトパットがバラバラと姿を現す。

 それとともに、何かの足音が近づいてくる。

 ゲードはピストルを構えた。


「うわああ!」


 叫び声を上げながら現れたのはユウキョだった。

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