少なくとも、この序盤二話に無駄な描写は見当たらない。
緻密に組み上げられた世界観。
それを説明ではなく、人物の行動と感情の中から自然に見せていく構成力。
そして、一つの描写にいくつもの意味を持たせる文章力。
AIによって最適化された世界。
本物ではない言葉に、心を動かされない女。
愛情に飢えながら、規律しか与えない父を追い続ける娘。
その父が、彼女に与えた最初の任務は――
心を持たぬアンドロイドと、友好を結ぶことだった。
ここまで綺麗に人物の欠落と世界設定が噛み合う作品は、そう多くない。
続きが読みたい。
そう思わされた時点で、もうこの作品の術中に嵌まっている。
フィリップ・K・ディックの名作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』のテーマは人間とレプリカントの間にある決定的な違い……共感性についてのお話でした。
こちらの作品では、任務を完璧にこなさなければ生きている意味がないとまで思い詰めたリタと……完璧であるはずのアンドロイドなのに、母性とも言えるような揺らぎを持つアイリーンとを……時には対立する存在として、時にはエモーショナルな絆を育む存在として濃密に描くストーリーが展開されます。
アニミズム的な考えでは物体の中にも霊魂が宿っていると言われることもありますね。
AIは素粒子でもないわけですから、物体じゃない。もっと難しい。
アイリーンの魂は、果たして本当に偽物なのでしょうか?
誰かを救いたい、という根源的な母のような欲求は果たして本当の『感情』なのでしょうか?
難しいテーマに挑んだ作者様の勇気に感服です。こういった作品に出会えるのがカクヨムの凄さだと感じます。
作者の渡様はアンドロイドの役割を熟すことで生じた魂の揺らぎを丁寧に掬い上げ、エンタメへと昇華しています。
率直に言ってとても感動しました。
さて、魂とは一体どこから来てどこへ向かうのでしょうか?
秋の夜長に、そんなような事を考えたり考えなかったりする方にオススメですよ!
どうやら「心を持たないはずのアンドロイド」が、泣いたそうです。
……はい。俺も最初はバグかと思いました。
ところが違う。どうも誰かさんのために泣いたらしい。
少佐、これってゴーストってやつじゃありませんかね?
「機械に心があるのか」なんて、俺たちがさんざん考えてきた問題を、今度はアンドロイドのほうから持ち込んできやがった。
しかもタイトルからして『精神潜航のアイリーン』。
精神に潜る?
俺なんか潜る前に、電脳の配線図見ただけで頭がショートしそうですよ。
ただ、ひとつだけ確かなことがあります。
泣いた。
それが演算結果だろうが、バグだろうが、ゴーストだろうが――誰かのために涙を流したって事実だけは残る。
……少佐。
もしかすると今回の事件、俺たちが調べてるのはアンドロイドの心じゃなくて、人間のほうなのかもしれませんぜ。
ま、俺としては泣ける機械がいるなら、泣けない俺にも少しくらい同情してほしいところですがね。
「不完全な本物」と「完全な偽物」。
この作品を読んでいて、特に印象に残った表現で素敵だなと思いました。
存在が人工物かどうかではなく、そこにある想いをどう受け取るのか。
「心とは何か」「本物とは何か」というテーマが、物語を通して丁寧に描かれています。
心理描写や場面描写も細やかで、登場人物たちの感情の揺れがしっかり伝わってくるのも魅力。
そして何より、タイトルにある「わたしのために泣いた」という言葉の意味。
読み進めた先で、それがきれいにつながった瞬間は本当に見事でした。
精神潜航という設定だけで終わらず、最後には「想い」そのものが心に残る作品です。