この作品を読んでいて、途中から私は「読みやすい」という言葉だけでは足りないと思い始めました。
そこで勝手に、『RX――Reader Experience(読者体験)』という言葉を使いたいと思います。
本作は、とにかくRXがいい。
物語の骨格は、非常に王道です。
普段は気怠く、どこかダメそうな寮長。
けれど実は、かつて名を馳せた凄腕の元諜報員。
悩みを抱えた子どもが現れる。
寮長グレイがその問題に気づく。
深夜に夜食を作る。
食事と言葉で心をほぐす。
そして最後には、隠していた力まで使ってその子を救う。
しかも、その力には命を削る代償がある。
――はい。見たことのある味です。
でも、それがいい。
本作は「テンプレだから先が読めてしまう」ことを弱点にしていません。
むしろ、読者が先を読めることを前提に、物語をものすごく速く、気持ちよく運んでくれます。
落ちこぼれ魔法少女が登場すれば、
「実は才能がないんじゃなく、強すぎて制御できないのでは?」
と思う。
その通りです。常人の十倍もの魔力があります。
制御のために「絶対に外してはいけない指輪」が渡されれば、
「これ、外れるな」
と思う。
はい。すぐ外れます。
そして暴走します。
タイトルには、すでに「暴走からの抱擁」と書いてあります。
グレイが来ます。
命を削ります。
少女を後ろから抱きしめます。
全部、期待したものを待たせず出してくれる。
これが本当に気持ちいい。
本作は何もかもが少し「食い気味」です。
読者が「きっとこうなる」と考え終える前に、その展開がもう来る。
次話タイトルに至っては、見せ場そのものを先に教えてくれる。それでも面白い。
なぜなら本作が売っているのは意外性ではなく、期待したカタルシスを最短距離で届ける快感だからです。
テンプレ作品の面白さって、「何が起きるかわからない」ことだけではないんですよね。
「こうなってほしい」と思ったものが、ちゃんと一番美味しいタイミングで出てくる。
牛丼を頼んだら、きちんと牛丼が出てくる。
そんな安心感があります。
そして本作は、文章の作り方そのものもWEB小説という媒体によく適応していると感じました。
料理描写はかなり丁寧です。
カルボナーラ一皿に、たっぷり尺を使う。
飯テロが好きな読者なら、じっくり味わえるでしょう。
一方で、物語を追いたい読者なら途中を流しても構わない。
料理が完成した。
美味しかった。
元気が出た。
相談が始まった。
重要なポイントは、ブロック単位でしっかり拾えます。
つまり、一文一文を精読しなくても物語から脱落しない。
これは決して文章が薄いという意味ではありません。
むしろ、読者がスマートフォンをスクロールしながら、どの程度の解像度で読むかを選べるように設計されているように感じました。
キャラクターも同じです。
口調、能力、役割が明確に記号化されている。
名前を忘れても、数行読めば「ああ、このタイプの人ね」とすぐ戻れる。
長期WEB連載では、毎回すべての読者が前話を精密に覚えているわけではありません。
数週間空くかもしれない。
通勤中に読むかもしれない。
料理パートだけ流すかもしれない。
固有名詞を忘れるかもしれない。
本作は、そういう読み方を許してくれる。
しかも、重要なところでは必ず指が止まる。
ここが本当にうまい。
実際、最終章へ進んだとき、私は途中で登場した人物たちをほとんど知らない状態でした。
それでも、驚くほど困りませんでした。
誰が治癒役なのか。
誰が索敵役なのか。
誰が創造系の能力を持つのか。
台詞と行動ですぐ分かる。
グレイが白髪になり、灰色の霧に覆われて暴走している理由も、細部までは分かりませんでした。
でも、
「ああ、あの“残り三時間”の代償が悪化したんだな」
それだけで、ちゃんと物語に戻れました。
これは説明不足ではありません。
むしろ逆です。
今この場面で必要な情報が何なのか、作者がよく理解している。
そして最終話。
ここは素直に感動しました。
子どもたちを救ってきたグレイが、今度はその子どもたちに救われる。
妻マリアから受け取った言葉がグレイを通して子どもたちへ渡り、その子どもたちが今度はグレイへ返す。
救いが一周して戻ってくる。
最後のパンケーキもいい。
完璧な料理ではない。
砂糖と塩を間違えて、しょっぱい。
でも、グレイは泣きながら食べる。
そして、
「飛ぶぜぇ!」
ここまで何度も使われてきた飯テロの決め台詞が、最後には別の重みを持つ。
さらに「深夜零時」というタイトルまで、新しい明日が始まる時間として回収される。
王道です。
でも、王道だからこそ気持ちいい。
一点だけ、非常に細かな改善案があります。
第三話の、
「ざっと常人の十倍は軽いわ」
という表現。
意図は「十倍は軽くある」だと理解できますが、一瞬「十倍なのに軽い?」と引っかかる読者もいるかもしれません。
たとえば、
「ざっと常人の十倍。いや、それ以上あるかもしれないわね」
くらいにすると、本作最大の長所である滑らかな読み心地をさらに損なわないと思いました。
今回の企画テーマは「我こそはテンプレなり!」。
本作は、そのテーマに対する非常に正面からの回答だったと思います。
テンプレとは、単に「よくある展開」ではない。
作者と読者の間にすでに共有されている文法です。
その文法を使えば、説明を省ける。
読者は先を予測できる。
だからこそ、そのぶん早く、気持ちいい場所まで連れていける。
テンプレは、読者への親切になれる。
そう感じさせてくれる作品でした。
知っている味です。
でも、ちゃんと美味しい。
そして最後には、ちゃんと満腹になりました。
素敵な物語を発見いたしました!
おそらく『 イケオジ界隈NO.1 』の称号を総ナメしていくのではないでしょうか?
男性は辛い過去、苦しい過去を乗り越えた時『 最高に輝くイカした漢 』になるのだと思っております🥰💕
ズボラそうな1人の男性が「 まさか!? 」と思う行動を見せた瞬間、人々は感動し、
そっけない態度に、ますます好感を抱いていくものです。
物語の内容には、あえて触れませんが、
ぜひ読んでください。感じてください。
1人のイケオジの生き様を!😎
この作品の主人公ほどカッコ良いイケオジは、いないと思います!
ずっと追いかけていきたい物語の1つとなりました🥰💕