第17話 語り継がれる一戦

 白石凛とLETHAL。


 準決勝第一試合の決着から数分が経った。しかし、会場の熱気は少しも冷めていなかった。


 公式配信では先ほどの試合がリプレイ映像として流され、同時接続は二十万人へ迫ろうとしている。コメント欄は猛烈な勢いで流れ続け、SNSでも大会関連ワードが次々とトレンド入りしていた。


『神試合だった』

『今年一番熱い試合』

『準決勝でこれとかヤバすぎる』

『白石もLETHALも強すぎる』

『何回見ても最後の読み合いで鳥肌立つ』


 大会公式アカウントが投稿した試合結果には、投稿から数分で数万件もの反応が集まっていた。切り抜き動画も次々と公開され、人気配信者や現役プロたちが一斉に感想を発信し始める。


 それほどまでに、あの一戦は格闘ゲーム界へ衝撃を与えていた。


「改めてリプレイをご覧いただいています」


 実況の黒田が映像を見つめる。


「いやぁ……本当に何度見ても凄い試合ですね」


「ええ」


 鬼塚は静かに頷いた。


「この試合は技術だけでは説明できません。二人とも試合中に相手を学習し、数分前とはまるで違う戦い方をしていました」


 画面には終盤の攻防が映し出される。


 凛が投げを意識させるために距離を揺らし、LETHALがその心理まで読んで下段を差し込む。勝敗を決めた、あの一瞬だった。


「白石選手の判断は間違っていません」


 鬼塚が続ける。


「投げを警戒したのは当然です。問題は、LETHAL選手がその選択まで予測していたことでした」


「つまり一段深く読んでいた、と」


「その通りです。だからこそ価値があります。どちらかがミスをしたわけではない。互いが最高の選択をした結果、最後の一手だけLETHAL選手が上回った。それだけです」


 コメント欄がさらに加速する。


『解説聞くともっと凄い』

『白石も完璧だったんだな』

『これ伝説の試合だろ』

『永久保存確定』


 一方その頃、控室では試合を見終えた選手たちが静かな空気の中でモニターを見つめていた。


「……本当に勝ったか」


 誰かが小さく呟く。


 返事はない。


 だが全員が同じことを考えていた。


 LETHAL。


 正体不明のKai使い。


 大会前は半信半疑だった者も多かった。しかし今、この場にいる誰もが実力を疑っていない。


「決勝へ行くなら、あいつを倒さなきゃならないのか」


 重苦しい空気が流れる。


 白石凛を破った。


 しかも接戦の末に読み勝って。


 その事実だけで十分だった。


 運営席でもスタッフたちがモニターを見ながら息を吐いていた。


「配信の数字、また伸びてます」


「SNSも凄いですね」


「LETHAL関連ばかりだ」


「正体不明っていうのも話題性がありますからね」


 スタッフの一人が苦笑する。


「決勝まで行ったらインタビューですよね」


「その時は、やっと正体が分かるかもしれないな」


 そんな会話を交わしながらも、視線はモニターから離れなかった。


 大会はまだ終わっていない。


 決勝進出者は、あと一人残っている。


 配信画面ではリプレイ映像が終わり、ゆっくりと次の画面へ切り替わった。


「さあ皆さん!」


 黒田が大きく息を吸う。


「準決勝第一試合の興奮が冷めやらぬ中ですが、続いては準決勝第二試合です!」


 コメント欄が一斉に流れ始める。


『来た!』

『決勝の相手が決まる!』

『誰がLETHALと戦うんだ』

『こっちも熱いぞ』


 大型モニターには、二人の選手名がゆっくりと表示され始める。


 決勝への最後の切符を懸けた戦い。


 その幕が、今まさに上がろうとしていた。

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