盗まれたと決める前に、三か所で同時に測りました
北の供給塔は、王都から馬で二日の高台にあった。
石の筒が空へ伸び、頂上で青い光が脈打っている。
到着した時、塔守の初老の男は既に縄で縛られていた。
「王都の監査官が来て、そのまま」
村長が言いにくそうに説明した。
「送った分が届かないなら、途中で抜いた者がいる。塔守が一番近い。そういう話です」
俺は縄を解かせた。
解く権限は無い。だから、解いた責任は自分の名前で記録へ書いた。
「逃げたらどうする」
監査官が睨む。
「逃げたら、あなたの疑いが正しかったことになります。今は、まだ違う」
塔守はしゃがみ込んで、手首をさすった。
抗議もしなければ、感謝もしなかった。二日縛られた人間の顔だった。
差は、月に約六百単位。
王都の受け入れ計器では、送出記録より確かに少ない。
「測っている場所が、二つしかありません」
リゼッタが帳面を開いた。
「塔の出口と、王都の入口。その間に何もない」
間が二日ぶんある。
どこで減っているかを、誰も見ていなかった。
俺たちは中継点を三つ作ることにした。
塔の出口。
途中の岩橋。
王都の入口。
同じ刻限に、同じ形の計器で、三日間続けて測る。
計器は王都から二台持ち込み、一台は村の井戸番が使っていた古い型を借りた。
「古いのは誤差が出るぞ」
監査官が言った。
「出ます。だから古い型は三か所を順番に回します。同じ機械が三か所で出した数字なら、機械の癖は差し引ける」
風は使えなかった。
魔力の流れに《そよかぜ》を当てれば、測っている物そのものを乱す。
俺にできたのは、岩橋の測定小屋を組む間、粉塵を外へ流すことだけだった。
村は、俺たちを歓迎しなかった。
当然だった。王都から来た人間が最初にしたのは、塔守を縛ることだ。
「測るのに、村の井戸番を使うんですか」
若い母親が食ってかかった。
「使えば、後で『村の者が触った』と言われる」
「言われます」
俺は否定しなかった。
「だから読む係と書く係を分けます。村の人が読んだら、王都の役人が書く。王都の人が読んだら、村の人が書く。片方だけの手で紙が完成しない形にします」
「それで守れるんですか」
「守れません。疑う人は疑います。ただ、疑うなら二人分を同時に嘘つきにしないといけない」
彼女はしばらく黙って、それから井戸番を呼びに行った。
実測は地味だった。
夜明け前に起きて、三か所で同時に読む。読み上げる係を村人と王都の役人で交互にする。書く係は必ず別の人間にする。
二日目の朝、岩橋の数字が跳ねた。
出口では正常。岩橋で減っている。
「やはり、この先の村だ」
監査官が言いかけた。
「岩橋の下、見ましたか」
俺は聞いた。
橋の下は、断崖と川だった。
降りるのに半日かかる。
三日目、光輝が縄を持って降りた。
「僕が行きます。剣は要りません」
彼は説明を読む習慣を得た男だ。今回も、まず測定手順の紙を読んでから降りた。
夕方、彼が戻ってきた。
手には、苔と、焦げた石の欠片。
「岩の裂け目が、光ってました」
彼は掌を広げた。
「盗む人がいるなら、あんな場所に道具は置けません。人が立てる幅がない」
漏れているのか。
抜かれているのか。
まだ両方の可能性が残った。
俺は塔守に、三日ぶんの記録を見せた。
彼は初めて口を開いた。
「六年前にも、同じ月に減った。あの年は雨が多かった」
「報告しましたか」
「した。返事は、測り間違いだと」
彼は縄の跡の残る手首で、帳面を押さえた。
「今度は、返事をください」
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