これはただの「勘違い系異世界転生」ではない。
主人公のノアは、別に世界を救おうとしているわけではない。
ただ自由に生きたい。
秘境を巡って、ロマンを感じたい。
それだけなのに、芋が食べたいと言えば飢饉を見抜いた先見の明になり、雷魔法を適当に撃てば神業になり、廃村を巡れば高度な情報収集になってしまう。
本人には深い意図がない。
しかし、周囲は勝手に深読みする。
この「本人の認識」と「周囲から見た姿」のズレが、とにかく面白い。
しかも、その勘違いが一つの出来事で終わらない。
領地を救い、王国を救い、やがて他国まで巻き込んでいく。
本人としては自由に生きているだけなのに、世界から見れば、とんでもない人物になっていく。
この温度差が、この作品の一番の魅力だと思う。
特に「何気ない一言が、周囲には重大な意味として受け取られる」という構造が分かりやすく、次はどんな勘違いが起きるのか、そしてノア本人がどこまで気づかないまま世界を動かしてしまうのかが気になる。
本人は何も考えていない。
周囲は勝手に考える。
そして世界は勝手に動き出す。
このシンプルな構造だからこそ、気軽に楽しめる勘違い英雄譚になっていると思う。
今後、ノアの「普通の行動」がどこまで大事件に発展していくのか、楽しみな作品。
地方貴族のカルディア男爵家の三男・ノアは転生者の少年。いつも自由気ままに行動しているだけなのに、彼の言動を周囲は勝手に深読みしてしまう。その結果、領地の問題を解決し、人々を助け、ついには王国を滅亡の危機から救ってしまう。ひとりの少年が世界を変えていく勘違い英雄譚です。
「芋が食べたい」と思いついて畑に芋を植えてもらっただけなのに、たまたま飢饉が起きて領地が救われる。カッコイイからと覚えた雷魔法を適当に放ったら、盗賊や密偵を一網打尽にしてしまう。興味本位で遺跡に足を踏み入れれば、運よく古代の遺物を発見してしまう。本人に大それた意図はないのに、いつも無自覚に成果を上げ、周囲から天才と讃えられていく「勘違いもの」のお約束展開が実に愉快です。
しかし何より他と違うのは、旅を愛するノアの行動力です。「面白そうだから、行ってみたい!」と、王国の各地の山や森、遺跡や観光地、蚤の市や屋台街へと飛び出していく。人生と冒険を心から楽しみながら、自分の世界を広げ、新しい人間関係を結んでいく。そんなノアの夢とロマンを追い求める生き方が大好きなんです。
「やってみたい」。そんな好奇心で自分の世界は、いくらでも変えられることを教えてくれます。ノアの予測不能な大活躍を、ぜひお楽しみください。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)