第11話 魔法の偉大なる力
「うおおおおおおおッ!!!」
カカカカカカカカカカカン!!!
迫り来る無数の『ピクルスの円盤』を俺は黄金のトングで必死に叩き落としていく。
縦1列の陣形。俺の身体が後のマカロンとレトの盾となっていた。しかし、敵の投擲の総量は俺が想像を遥かに超えていた。
「ハッ、無駄な足掻きを。まとめて揚げカスにしてくれよう!」
敵の将軍の冷酷な嘲笑が響く。撃ち落としたピクルスの背後から、空を覆い尽くすほどの『マスタード爆弾』と『冷え切ったパティ』が、時間差で一斉に降り注いだ。
──ドゴォォォォォォン!!!
ステンレスの大野原に爆発音が響き渡る。飛び散る黄色いマスタードの衝撃波が、縦一列の俺たちの防陣を容赦なく吹き飛ばした。
「きゃあああああーーーっ!!」
「クソがぁぁぁーーーーっ!!」
大爆発に巻き込まれ、俺たちは無様にステンレスの上をゴロゴロと転がった。
その衝撃で俺たちの馬――チープで丸みのあった『ハッピーセットのおもちゃ』がバラバラに粉砕され、大野原に虚しく飛び散っていく。俺たちの機動力(足)が、完全に失われた瞬間だった。
「ゲホッ、ゴホッ……! マカロン! レト! 無事か!?」
爆発の黒煙が風に煽られて、ゆっくりと流れていく。
その煙の向こう側──。サムライワックの軍勢は、俺たちの追撃を完全に振り切り、馬車と漆黒の軍馬の
「嘘だろ……。姉ちゃん……じじい……っ!!」
レトが壊れたおもちゃの馬の残骸を殴りつけ、悔しさに四角い身体を震わせる。
「最悪……。ハッピーセットの馬も壊れて、サムライマックにも逃げられて……。」
遠ざかる馬車の
「……クソがぁッ!!」
沈黙を破ったのはレトだった。四角い身体を激しく震わせ、壊れたハッピーセットの馬のパーツをステンレスの床に叩きつける。
「なんでだよ……! なんであの時、馬を止めなかったんだポテト! お前がトングなんかでチマチマ弾き返しなんてしないで、俺が最初から突撃してりゃ、連れていかれずに済んだんだよ!」
「なんだと? 落ち着けレト!」
「うるせぇ! お前みたいに『美少女に食われたい』なんて不純な動機で旅してる奴に、俺の焦りが分かってたまるかよ!」
レトの言葉が、鋭い刃となって俺の胸(衣)に突き刺さる。
「不純だと? じゃあ、誰がハッピーセットの馬をマカロンを守って、お前の盾になってピクルスを弾き返したと思って――」
「助けたかったなら、なんで神具(トング)を使えなかったんだよ!!」
レトの叫びが広大なステンレスの野原に響き渡る。
「伝説の神具だろ!? 世界を救う武器だろ!? なんでただカチカチ鳴るだけで、光りもしねえんだよ!」
「──レト、そこまでにしなさい!!」
たまらずマカロンが二人の間に割って入った。
「ポテトは、アンタを守るためにボロボロになって盾になったのよ!? カーディガンの弁償のために同行してる私が言うのもアレだけど……ポスト八つ当たりするのは絶対に間違ってるわ!」
「チッ……。もういい。俺1人で、じじいと姉ちゃんを救いに行く」
レトはふいっと顔を背け、1人で黒煙の方に歩き始めた。
「待て、レト! 一人でどこへ行くんだ!」
レトの短い影が、銀色のステンレスの床に静かに伸びていく。
レトが黒煙の向こうへと去り、ステンレスの大野原には、重苦しい静寂だけが戻ってきた。
残されたのは俺と、ステンレスの床にペタンと座り込んだマカロンだけだった。
「──って、痛っ……あぅ……っ」
俺に背を向けて歩き出そうとしたマカロンが、わずか数歩でステンレスの床に崩れ落ちた。
「マカロン!?」
俺は這い寄るように彼女に駆け寄る。見るとさっきの爆発の熱で身体が黒く「焦げて」いた。高熱による焦げ──それは人間でいう重度の『火傷』に他ならない。
彼女はもう激痛で一歩も動けないという様子だった。
「動くな、今すぐ何とかするから!」
そう大口を叩いたものの、俺は自分の無力さに激しい目眩を覚えた。周囲を見渡しても、あるのは冷たいステンレスの大野原だけ。レトはもういない。ハッピーセットの馬もバラバラだ。
「クソッ……何か、マカロンの火傷を冷やすか、保湿できるものはないのか……!」
ステンレスの床を這うようにして周囲の探索を始めた。
(ただ美少女に食われたいなんてふざけた理由で生きてきて、いざとなったら誰も救えず、喧嘩別れして、挙句の果てには目の前で傷ついている女の子一人、まともな道具も持っていない……!)
「あいつの言う通りだ……。俺は、情けないポテトだ……」
ステンレスの床にシナシナの指先を打ち付け、俺が必死に這い回っていた、その時だった。
──カチ。
遥か天井の暗闇から、無機質な機械音が鳴り響いた。直後、調理台の大野原のすべてを白く染め上げるほどの、激しい『スプリンクラーの雨』が降り注ぎ始めた。
「なっ……嘘だろ……ッ!?」
ザーーーーーッ!!!!!
容赦なく降りかかる塩素混じりの冷たい水。それが、俺の身体にトドメを刺した。ただでさえ冷めきっていた俺の衣は、一瞬にして限界を超えて重くなっていく。
「あ、熱が……身体の、油が……」
急速に芯まで冷えていくのが分かる。冷たく、重く、シナシナにふやけた、ただの「クズ芋」の塊。それが今の俺だ。
「ポテト……っ! いや、嫌よ……雨なんて、来ないで……っ!!」
(くそっ……!なんでだよ!寒い。……駄目だ。俺はこのまま死んでしまうのか。)
冷たいステンレスの床の上。そこにはシナシナのポテトと溶けつつあるマカロンが横たわっている。上から降り注ぐ冷めきった雨に打たれながら──。
◆◆◆
「──ハッ!?」
勢いよく飛び起きる。身体を見ると、あのサクサクとした最高のカリカリ感が、120%の状態で
「……あれ? 俺、生きてる? 捨てられてない?」
赤地に黄金のWマークが描かれた、見慣れた、そして何よりも落ち着く『ワックフライポテトの赤い容器(Lサイズ)』の中だった。
「やっと目が覚めた。まったく。狭苦しくて、私のパイ生地が
突如、容器のフチの上から、冷ややかで、だけどどこか艶っぽい少女の声が降ってきた。
見上げると、そこには、容器の縁に生意気に腰掛け、綺麗な脚をブラブラと揺らしている一人の女の子がいた。
彼女の髪は、まるで極上のオーブンで焼き上げられたかのような、美しいキツネ色のサクサクとしたパイ生地。その奥から、甘くスパイシーなシナモンの香りがツンと漂ってくる。
「お前、誰だよ……?」
「私は『パイ』。見ての通り、ただのアップルパイ。あなた達が無様に転がってたから、ここまで引きずってきて回復魔法で治療してあげたの」
感情の起伏がまるでない様子で、フンと鼻を鳴らした。
にしても綺麗な脚をしている。視線が勝手に徐々に脚に吸い寄せられてしまう。……駄目だ駄目だ!俺は何を言ってるんだ!
「回復魔法……! そうか、お前が俺たちのシナシナを治して、温め直してくれたのか! ありが──」
「勘違いしないで。別に正義の味方気取りで助けたわけじゃないわ。……ただ、私はサムライワックを懲らしめて欲しいだけ」
「え……? サムライワックを?」
「私、あなた達の闘いを少し隠れて見てたの。本当にバカで、無茶苦茶で、効率の悪い戦い方だった」
呆れたように溜息をつく。しかし、彼女の衣の中で冷徹なドライさを焼き尽くすほどの、激しい怒りの炎(熱々のアップルフィリング)が宿っていた。
だが──俺の視線は、彼女の解説ではなく、別の場所に完全に釘付けになっていた。リズミカルに揺れるその脚だ。
「……でも、サムライマックの圧倒的な軍勢を相手に、あそこまで喰い下がったのはあんたたちだけよ。だから、私の目が誤魔化せないうちに教えてあげる。あのハッシュドポテトの男(レト)と、サムライワック軍の行き先、知りたくない?」
「──ッ! 知ってるのか、パイ!」
俺は思わず身を乗り出す。といいつつ3回目。また見てしまった。そろそろ止めないと彼女に怪しまれると分かっているが、やむお得ない。
「この
地下倉庫……。ワクドナルドのバックヤードで食材を保管するための極寒の地帯――
「そう。そこは極低温の冷気が吹き荒れる絶望の檻。……ハッシュドポテトの男も、馬車を追って階段を使って地下に行ったわ。だけど、あの世界に長居すれば、水分が完全に凍りつくのに。本当にバカなイモ」
しかし、俺はレトの言う通り、冷めたら何の役にも立たない、ただの冷え切ったジャンクフードの出来損ないだ。俺も地下に行けば凍りついてしまうんじゃないか。
突如、上空から冷ややかな声が降ってきた。俺の首根っこ──ポテトの先端を掴み、俺をポテト容器の奥へと投げ飛ばした。
「ウジウジ止まってても仕方がないわ。私はサムライマックを懲らしめたい。そしてあんたのトングが必要。……だから、さっさと乗りなさい」
パイがハッチの方角に、真っ赤な魔方陣を展開する。
「え、ちょっと待て、まさか──」
「──リクック・バースト(再加熱大爆発)」
ドンッ!!!!!
「ぎゃああああああああーーーーーっ!」
次の瞬間、俺たちが乗った赤い容器の真後ろで、すさまじい熱風の爆発が巻き起こった。爆発を推進力に、ピカピカな調理台(ステンレスの大野原)の上を、摩擦ゼロの超音速で滑走し始めた
「黙って前を見て。もう、地下倉庫の入り口よ」
冷たい風が吹き狂う暗黒の地下倉庫ハッチが、ものの数秒で大迫力で迫ってきた。
自分の弱気な心を置き去りにするような、圧倒的なパイの強引さと魔法の速度で、地下倉庫の入り口付近へとダイブした!
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