第21話 成長する動物飼育員としての雛人

 鳩センターでの活動が認められた。


 動物飼育員の資格を取った雛人ひなと


 やっと彼女も大人の仲間入りとなる。


 まだ子供だけど、あと2年で大人になる。


 一方、僕は久々の会社出勤となる。


 担当課の事務員が新たに入社したというので、専務として教育して居たら、「私の好みです」などと言い出して、在宅ワークとの両立が厳しい状態。


 その中でかなでの代わりに雛人を見に…いや、好きで行っているんだけど、その部下が一緒に見に行きたいと言い出して困っていた。


 僕には雛人という娘が居るから遠慮してくれ、と告げたものの「大丈夫、同じ女性でしょう?」と上目遣いで言い始めた。


 どうしようも無く、また浮気していると奏にも雛人にも言われそうだが、「社外研修という理由にしましょう」と押されてしまう。――それに、3代目ポッポロと雛を連れて行かなければならず、「鳩、居るけど大丈夫?」と尋ねるも「大丈夫です」と押し切られる。


 成長した雛人を見に行きたいだけなのに、なぜ一人増えるんだろう…。

 僕はこの子の世話役じゃないというのに、おばさんになったと言っても、まだ「私の好み」と言われるなんて捨てたもんじゃないな――と思った。


 だが…


春井はるいさん、いくら業務がきついからって女の子連れまわさなくても、休憩取れば大丈夫なのでは?」


 ――と、上司に言われる。

 なのにこの子は「春井主任」と甘えて、腕に両手を絡ませて僕を連れてゆく。

 この子、波人燈夏なみひと・とうか(18歳)は常に僕をリサーチして、行動記録などを行っている。食事や化粧の種類、家族構成まで……つか、ストーカーじゃん。上司も手を焼く筈だよ…。


 あれほど同伴の行動は避けようとしたが、遂に僕と波人は同じタクシーで鳩センターへ向かう。人目を避けようにも彼女のハスキー声によって僕の行為、様子等が人目につくほどに……。


 雛人、キミに会うまでが試練だ。

 折角動物飼育員になって、ポッポロと雛を連れて行くのに、アパートに一旦戻らなくちゃいけない。だが、波人に生活習慣を全て把握されると厄介だ。

 ここはタクシーに残ってもらうのが最善だろう。


「主任、怒ってるんですか?」


 キョトンとした表情でこちらを見つめる。

 そして在ろう事か、僕の手の先を自身の胸へと押し当てる。

 この子、僕を男性と勘違いして居ないか?


「春井主任は女性なのに、筋肉質なんですよね~♪」


 更に胸の谷間へ僕の手を押し入れる。

 柔らかい胸が僕の手首から上腕部を挟む。

 それにタクシーの運転手、「守秘義務だから」として目を背ける。

 はやくアパートへポッポロ達を取りに行かなくては…


 ――春井家のアパート


 到着した。

 だが、事はエスカレートし、彼女は僕の唇の付近にまで近寄り、「主任はシングルマザー?」と尋ねてくる。

 流石に苛立った僕は波人燈夏の腕を払いのけ、「いやん!」という声を無視し、アパートの中へ入り、息を乱した。


「ハァ、ハァ…何ッなんだ、あの子はァーーッ!?」


 とにかくポッポロ達を外出用の籠に押し入れ、鳩センターに向かうためのファイルを手にしてアパートの扉の鍵をロックし、再びあの異様なタクシーの車内へと向かった。

 だが、波人は僕の腕を引っ張り、更に胸元へ押し当てる。

 すかさず僕は運転手に「鳩センターへ」と言って、目的地へと向かわせる。

 しかし波人はポッポロの籠を持ち、キスを迫るような口調で手懐けようとする。


 残念だけど…訓練した鳩の前にキミの愛撫は無意味だよ。


 そう思っていると、波人はテクニカルに籠の前に一切れのパンを与えていた。

 それに、灰の混じったような特殊な化粧のせいか、ポッポロと雛は逃げ出す事もしない……。一体、彼女は??


「お客様、鳩センターに着きましたよ」


 ようやく到着したか。

 これでポッポロ達の世話をみて貰える。

 雛人、怒らないかなぁ…


 ――鳩センター・鳩課きゅうか


玉鳴たまなき課長、どうも春井です」


「あら? 春井さん、ご家族?」


「いえ、恋人です」


 こら! 誤解されるような事言うんじゃない。

 キミは僕の部下だろう?


「だってぇ~……あれ? もしかしてあの子が?」


 そうだ。あの鳩を手懐けている子が雛人だよ。

 玉鳴課長、雛人の初任アルバイトの様子は如何です?

 動物飼育員の資格も取れたことだし、プロ顔負けでしょう。


「えぇ。一応何年も働いているベテランなので、初任とは言えない働きをしますよ。それと、これまでの働きに応じた給与も余分に与えてゆく予定ですしねぇ」


「えぇ~~、私も雛人ちゃんに声かけていいですかぁ~~?」


「はいはい、どうぞ遠慮なく」


 僕は許可してない。


「こんにちは。春井雛人です。あ、花蓮かれんママが今日の担当だね?」


 そうそう。僕が今日の世話係ィ~。あと…、オマケが付いている…。


「初めまして。私、春井主任の部下で波人燈夏といいます。よろしくね、雛人ちゃん!」


「えぇ。それにしても…クンクン…鳩の匂いがしますねぇ…」


「あ! 分かるぅ~? この香水、鳩が機嫌よくなる香料を着けているの」


 え? 波人さん…キミ、鳩を飼っていたの?


「はい。私は昔から鳩の言葉が聴こえる様に特訓していました。でも性格とか様子位しか分からなくて…雛人ちゃんがどんなお仕事しているのか興味を持ちましたぁ~」


「私は鳩の鳴き声から言葉を通わせる事も出来ますよ。それに…あれ? 波人さんて、私の高校の先輩じゃありませんでした?」


 え? え?? 何が起きている???


「そういえば…、どこかで見たような…? あ! そっか、あの鳩小屋で世話をみていた1年生の!?」


「今は2年生ですけどね。そっか、花蓮ママの部下になっちゃったんですねーー。大丈夫です? どこかで変な事されていません?」


 僕は唯々、雛人の仕事ぶりを拝見する予定で来たけど、多くは彼女達の話し合いでポッポロ達が餌を貰い、唯々背中を撫でられている様子しか見ることが出来なかった。しかも、雛人に浮気癖を調査されていた。


「そうね。例えばキスしちゃったかなぁ~…うふふ」


 だが、玉鳴課長は見かねて、こう告げる。


「鳩は騒がしい場所を苦手とします。なるべくそういった話は鳩カフェでして頂ければと思います…」


「あ、すみません」


 ようやくこのループから解放された。

 雛人は上司である課長の「向こうで世話を」という言葉通りに、施設内の鳩小屋でポッポロ達の面倒を見ていく。

 目的は見学だ。

 だからこれ以上、波人が変な気を起こさない様に僕が見張っていないと…。


「ねぇ、主任」


「なに?」


「もしも、私が鳩だったら一番に世話を見てくれる人は誰になるんでしょう…」


 突如、波人が黄昏る様に自身を見つめだす。

 「過去に何かあったの?」と尋ねると「ううん、何でも」と言葉を濁す。

 「大切な何か?」と聞くと「お母さん」と告白する。

 波人は鳩が好きだった母親と死別し、それ以来、自宅の庭で鳩を育てていたのだそうだ。人は何か苦境に立つと、鳩を飼い慣らす様子である。


「何も育ててもらうのは鳩だけじゃなく…、人間も同じですよね~」


「そうそう。波人さん、人間も鳩と同じなんだよ」


 そう。成長する度に色んな出来事があって、様々な立場へ赴く。

 それが鳩との幸せを満喫できるのなら、ある意味それが恋に違いない。

 キミは偶然にも失った過去から頂いた未来を受け入れるだろう。


「主任…」


「なに?」


”チュ”

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