ありす甲子園2026 <遠藤孝祐賞 受賞作品>です。
ちょっと冷めてそうでしごでき人間のコーモリくんは、なんか豪快なミヤコ先輩といい感じ。
それだけならただの先輩後輩の恋愛ものなんですけど、コーモリくんには秘密があった。
月の世界から遣わされた、地球を探るエージェントなのだ。
この物語で特に好きなところは、ミヤコ先輩の豪快さなんですよね。
かつていましたよね。この世は我がものだ満月が欠けないように、がはははなんて言った人。
それだけ横暴かはさておき、ミヤコ先輩は月を見上げる。コーモリと一緒なら、インスタントコーヒーだっておいしいって。一緒にお酒を飲んでいても、寝てしまえるほど無防備になれる。
だって彼女は、この世がとても綺麗なものだって、真摯に信じられるから。
ミヤコ先輩を月へ攫わなかったのはなんででしょうね。
月の重力は、地球に比べて六分の一。ミヤコ先輩に引っ張られ、落ちていくのも悪くない。
今宵の月も、あなたと見るから美しい。
会社の先輩後輩の恋愛ストーリー。と思いきや、もう一枚仕掛けがあります。それはネタバレになるので控えますけれども。本作のヒロインであるミヤコ先輩は三十路の女性ですが、とても魅力的です。後輩の小森君はその出自ゆえに常識というか空気を読む能力を欠きますが、そんな彼のこともけらけら面白がって気にかけてくれます。藤原道長の「望月の歌」をネタにした会話でも、「思い通りにならないこの世も、わたしは割と綺麗だと思っているよ」と、小森と安酒を飲む時間を祝福してみせます。酩酊した姿も可愛い。小森君は最後にとある決断をしちゃうわけですけど、それはもうミヤコ先輩にやられちゃったからでしょう。
実はSFでもある本作。ちゃんとSFであることにも意味があります。おすすめです。