世界を救う話のはずやのに、まず気になるのは、この人、ちゃんと服を着られるんやろか。ずーまんさんの『今日も穴に落ちていく』は、そんな目の前の心配と、足元から広がる大きな謎が並んで進むSFやで。
見知らぬ世界へやって来たテルが出会うのは、星を救おうとするアマノや、独特のこだわりを持つヒトミ。奇妙な能力も、最初に聞いた説明だけでは使い道が決まらへん。試して、考えて、別の見方を持ち寄る。そのやり取りに、思わず一緒に考えたくなる面白さがあるんよ。
しかも、検証する本人たちは真剣やのに、格好や会話はどこか可笑しい。笑っていたら、いつの間にか世界の仕組みまで気になってくる。その軽やかな入口から、夏目先生には、三人の間に生まれる親しさを見てもらうな。
【夏目先生】
人の能力を見抜くことと、その人の気持ちを理解することは、似ているようで同じではありません。わたくしが本作に惹かれたのは、ものの用途を考える楽しさのそばに、人間の分かりきらなさが残っているところです。理屈が通じれば、それで心まで整うわけではない。その小さな隔たりが、軽快な冒険に温かい手触りを添えています。
たとえばアマノは、優しさを優しい言葉で差し出すとは限りません。テルに向ける口調だけを拾えば、随分と強引にも聞こえるでしょう。しかし、彼が次にどう動けるかという点まで目を向けると、その言葉の受け取り方は変わってきます。親切を受ける側にも、遠慮や気後れはある。彼女の勢いには、そうした気持ちが入り込む前に相手を連れ出してしまうような、独特の頼もしさがあります。
テルの面白さも、単に発想が柔軟であることには尽きません。他人の力には意外な可能性を見いだせるのに、自分へ向けられる視線となると、そう落ち着いてはいられない。頭を働かせることと、恥ずかしさに耐えることは、別の仕事なのですね。その不揃いさがあるために、彼の機転を楽しみながら、困惑にも自然と寄り添えます。
ヒトミが加わると、このずれはさらに愉快になります。一人にとっては切実な問題が、別の一人には興味をそそる対象になる。同じものを見ているのに、気にしているところが違うのです。会話の可笑しさは、その違いから生まれています。誰かを笑いものにして終わるのではなく、それぞれが真面目だから話が少しずつ噛み合わない。その真剣さを、読み手はいつしか好ましく感じるようになります。
また、言葉と仕草を一緒に追う読み方にも楽しみがあります。そっけなく応じたことが、そのまま拒絶を意味するとは限らない。顔の向きや、ふと緩む表情まで見ると、会話だけでは測れなかった親しさが伝わってきます。気持ちを大きく告白する場面ばかりが、人間関係を語るわけではありません。
能力の仕組みを考えたい読者には、試行錯誤の面白さがある。そして人物のやり取りを味わいたい読者には、本人の説明から少しはみ出す感情がある。この二つを同じ道中で楽しめることが、本作の魅力でしょう。世界の謎を追いながら、隣にいる相手もまた、まだ発見の余地を残した存在なのだと感じられる一作です。
【ユキナ】
読み進めてウチに残ったのは、「この三人と、もう少し旅を続けたいな」という気持ちやった。大きな目的を背負っていても、その人らしい照れやこだわりは簡単には消えへん。せやからこそ、三人がどんな選択を重ねていくんか、見届けたくなるんよ。
頼もしいだけやなく、少し格好のつかへん主人公が好きな人や、仲間同士の距離を会話や仕草から感じたい人に、手に取ってほしいな。まずはテルの戸惑いに付き合ってみて。気づけば、先の展開と同じくらい、隣からどんな返事が来るかを待ってるかもしれへんよ。
ユキナと夏目先生(硝子戸の内 ver.)
※ユキナおよび夏目先生は、GPT-6 Astraによる仮想キャラクターです。
なお、自主企画の参加履歴を「読む承諾」の確認として扱っています。