第23話:大将戦 大宮VS鴻巣

対峙する大宮と鴻巣。

互いに一歩も動かず、相手を見据える。

周囲を囲む兵たちは息をひそめて見守る。

風が二人の間を吹き抜けた。


先んじて動いたのは鴻巣だった。

地を蹴り、一気に間合いを詰めると同時に剣を抜き放つ。

その勢いのまま、大宮を襲う鋭い横一閃!


大宮はわずかに腰を落としただけだった。

刃は大宮の頭上を振り抜き、空振りに終わる。


鴻巣は止まらない。

縦横無尽に斬撃を繰り出す。

軌道を次々と変えながら、息つく暇もない連撃だ。

だが大宮はそれらをすべて紙一重でかわし、刃先は虚空を切るのみ。


「あっ! あ゛ーっ! 惜しい!」

「殿、いけますぞ! 頑張ってください!」


鴻巣兵から歓声が飛ぶ。

傍目には避けてばかりの大宮が押されているように見える。

連合軍の兵たちにも焦りの色が。


「だ、大丈夫なのか?」

「避けるだけでは……」


しかし主将の上尾、桶川は余裕の表情。

北本も、鴻巣が優勢だとは思えなかった。

実力者の彼らには分かっていた。

大宮は追い詰められているのではない。

鴻巣の攻撃を全て見切っているのだ。

最小限の動きだけで受け流し、あえて紙一重の距離を保っている。



先に息が乱れ始めたのは鴻巣だった。


「はぁ、はぁ、何故だ? 何故当たらない!?」


大宮も生身の人間のはずだ。

これだけの連撃を受ければ、どこかで回避を見誤るはず!

そう信じて剣を振り続けるが、その瞬間は訪れない。

鴻巣は自らを奮い立たせる。


「おりゃあああーっ!!」


剣を高く持ち上げた。

頭上から豪快に振り下ろす、渾身の縦斬り。

大宮は事もなげに、軽快に後方へ跳び退いた。


再び距離の開いた両者。

鴻巣の額には大量の汗が噴き出していた。

そして気づく。

大宮は、まだ一度も剣を抜いていない!

困惑と焦燥で息が詰まりそうになる。

その様子を目にし、大宮は静かに口を開いた。


「知りたいか? 何故、鴻巣殿の剣が私に届かないのか」


鴻巣は息を整えながら、返事の代わりに大宮を睨み返す。


「鴻巣殿が私めがけて攻撃を繰り出そうと思った時点で、実際の攻撃よりも先にその“意志”が放たれている。私はそれを感じることが出来る。だから造作もなく回避できるのだ」


「そんな馬鹿な……」


鴻巣は絶句した。


「私が治める帝都さいたま市の管轄は、人が集う街だ。駅には絶えず人波が押し寄せ、商業地には無数の人が行き交う。大勢の人々の動き、その加減を日頃から目で追ううちに、やがて相手の動きを事前に察知できるようになった」


大都会、大宮。

埼玉国でも屈指の人口密集率と都市機能が、彼にこの神業を授けた。


「そ、そんなもの……」


鴻巣は歯を食いしばる。

もはや祈るような心境で己を叱責した。


「人口や人の流れが、市町村のすべてじゃないっ!」


一喝とともに同時に地を蹴る。

もはや意地だった。


「うおおおおおーっ!」


全身全霊をかけた飛び込み斬り。

跳躍する鴻巣を前に、大宮は軍服の上着を脱いだ。

ひらりと舞ったそれが、降りかかる鴻巣の剣に巻き付く。

上着が刃との摩擦を生み、剣速を鈍らせる。

その瞬間、大宮が上着の上から剣を掴んだ。

そして手に力を込める。


甲高い金属音。

鴻巣の剣が真っ二つに折れ、切っ先が道路に転がった。


鴻巣は思わず後ずさる。

手に残るのは、半ばから折れた剣だけ。



決闘の場が、シーンと静まり返る。

誰一人として声を発しない。

目の前で決闘を繰り広げる両者の実力差に、息を飲むばかりだ。

やがて鴻巣軍の兵たちは諦めるように視線を落とした。

家臣たちも唇を固く閉ざし、敗北を受け入れようとしている。


大宮と鴻巣。

二人は間合いを取って向かい合う。

大宮は凛と構えたまま。

対する鴻巣は、震えているではないか。

鴻巣は葛藤していた。

残酷な現実に。


勝てないのか。

所詮は、埼力なのか。

人口、経済力、知名度、観光地、都市としての規模。

それらを持つ者こそが、強者なのか。


ならば――


それらに恵まれない市町村は、“劣っている”というのか?


違う、断じて違う!


都市の価値とは、土地の魅力とは、そんな数字だけで決まるものではない。

数字ばかりを追えば、小さな数字に秘められた尊さをきっと見失う。

誇りがある。魂がある。

どんな市町村も、オンリーワンなのだ!


埼魂さいたましいは、埼玉国すべての市町村に等しく宿っているーッ!」


そう叫ぶと同時に、鴻巣は折れた剣を道路へ放り投げた。


武器を捨てる、諦めたのか?

大宮がそう思った、その時――


大気が震える。

刺すような埼気と、濃厚な埼圧。

鴻巣の全身から放たれている!


「何だ、この尋常ではない力の波動は……!」


大宮の表情が初めて険しくなる。

戦いが始まって初めて剣を引き抜いた。

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