太平記は原典を読むのをサボって、吉川英治の「私本太平記」を随分前に読んだきり履修したことにして誤魔化していました。もうこのシーンのことも殆ど忘れてたんですが、最近今村将吾の「人よ、花よ、」を読んだり、「逃げ上手の若君」が流行ってたりと、太平記を本腰入れて読むかいなと思っていたところ、とある自主企画にこちらの作品が参加されていて、それで拝読したのです。
そしたらですね。すごい面白かったんですよ。歴史小説なんでそりゃもう大河ドラマ並みに創作されていて、例の義貞が竜神八部への願掛けで海に投げ入れた黄金の太刀が、何と若かりし頃鎌倉で出会った足利高氏から貰ったものだったというエピソードから始まります。そりゃあの二人、そもそも鎌倉の御家人ですから若かりし頃に会ってた可能性はありますけど。もうそれだけでワクワクしません?
何故高氏が譲ったのかという理由からして読ませます。こういう創作は加減が意外と難しく、もっともらしい嘘か大嘘でないと興醒めですが、実に巧みな大嘘で手を叩きたくなりました。義貞の人物像も脳筋なんですけどいい感じの惚けっぷりでまた良い。
地の文も台詞も口語で読みやすいので、歴史小説って文体が文語調で苦手、という人も敬遠することなかれ。遅れて四谷軒様を知った者がベラベラ語っていて恐縮ですが、兎に角面白かったんでおすすめです。
稲村ヶ崎で義貞が太刀を海へ捧げ、潮が引き、鎌倉へ突入する名場面が圧巻の臨場感で描かれています 🌊🌕
月光に照らされた黄金の太刀が海へ沈む瞬間は、史実の重厚さと神話の幻想が溶け合い、読者を“月の都・鎌倉”へと引きずり込みます🌌🗡️
そして何より胸を打つのが、若き日の義貞と足利又太郎高氏(のちの尊氏)の邂逅。
太刀を海へ投げ捨てる高氏の奇行と、それを本気で拾いに行く義貞——この二人の出会いが、後の歴史を大きく動かす伏線として輝きます⚔️🔥
史実を知っていてもなお “胸が熱くなる”。義貞と高氏の若き日の誓いが、鎌倉攻めの最高潮へとつながっていく構成は見事の一言です 📜💫
歴史ロマンとしても、戦記としても、人物劇としても一級品。「月の都」をめぐる二人の運命が、読後に深い余韻を残す素晴らしい短編でした 🌕✨
国民的歴史小説作家である司馬遼太郎は、南北朝時代の武将・新田義貞についてこう評しています――「稀世の戦下手」と。何の作品かは忘れましたが、あまりに直球ストレートな表現だったのでよく憶えています。
そんな新田義貞も、鎌倉幕府討伐戦の頃は輝いていました。機動力で渡河戦を制した小手指原の戦いや、敵の狙いを看破して逆に弱点を突いた久米川の戦いなどは名将の采配そのもの。そして挙兵からわずか半月後の鎌倉攻めでは、有名な稲村ケ崎の伝承のとおり、潮の干満を利用する方法で鎌倉幕府を滅ぼしています。
本作は、その稲村ケ崎の伝承を活かした歴史作品です。「新田義貞が太刀を竜神に捧げて鎌倉への進軍路を啓開する」お話ですが、そこに想像の翼を拡げたエピソードを挿入するのが四谷軒氏の歴史小説の面白さ。
なぜ海無し県出身の義貞が、潮の干満を利用できたのか? なぜ進撃路をひとつ確保されただけで、鎌倉方はあっけなく敗れたのか? その答えは、ある意外な出会いがきっかけでした。
例によって歴史好きにはたまらない四谷作品、是非お読みください!