Ep.3-14 石垣積み作業 - Birth of the People
結局、カーラが持ってきたのはコーヒーを淹れる道具、2段構造になった小さな金属製のポットだった。
下の容器に水を入れて火にかけると、沸騰した湯が膨張して上の容器に溜まる。
その際に中間に詰めたコーヒーの粉を通過することで、コーヒーの抽出が行われる。
「マキネッタっていうの。可愛いでしょ、お姉さま」
ブルーノにかまどの火を借りて、淹れたコーヒーを昼食と合わせる。
昼食は鯉と乾燥したハーブを使った簡単なスープと石窯で焼いたばかりのパン。
蕾椛はこれらもすべて、しっかりと冷ましてから食べた。
「もう、お姉さまったら、全部冷ましてばっかり」
「い、いいじゃない。熱いの苦手なんだから」
そんな会話をしつつ、午後の石垣の補修作業に戻る。
「その大きな石ではなく、ヴィオラは先に平らな石を差し込んでください」
「了解っす。ライカお嬢様、その石持ち上げてくださいっす」
「わかったわ、これでいい?」
「わたしが細かい石で隙間を詰めるからちょっと待ってね。よし、これでいいわ。お姉さま、降ろして」
といった具合に連携してテキパキと作業を進める。
ここまでくれば慣れたものだ。
積み上げられていた物が崩れただけなので、元あった形を佳乃が計算して割り出す。
重い石は蕾椛が移動させ、なるべくカーラとヴィオラの体力が尽きないように役割分担。
あっという間に石の壁が修復されていく。
「そういえばこの石垣ってなんのためのものなの?
ここに来て、普通の動物って猫くらいしかみていないけど」
「羊が逃げ出さないようにするのと、狼なんかの野生動物が入ってこないようにするの。
羊はこの時期だとまだ動物小屋に入れているはずだわ。寒いと死んでしまうから」
「それに外に出しても食べる草がまだ少ないっすからねー。
放牧に切り替えるのはまだもうちょい先っす」
地面を見ると確かにまだ草が若芽を見せたばかりで短い。
ちらほらと農作業の時にも見た穴ぼこの脆い石の方が目立つ。
「羊が見れないのは残念だけど、良かったのかな。
私、なんだか動物にあまり好かれないみたいだし」
「あ、さっきの、見てたっすよ。猫が思いっきり警戒してたっすよね」
「むぅ、でも猫の魔法道具、錬金獣があれば触れるのよね?
なら別に生き物に好かれる必要はないわ」
「……別にお姉さまがそれでいいならいいけど、そんなペット用の錬金獣なんてあったかしら?」
軽口で会話しながら作業を続け、昼も中ごろにはほとんどの石垣が修復できていた。
「ふう、いったんはこんなものかしら? そろそろ休憩の時間よね」
カーラが懐から時計のようなものを取り出して時刻を確認してそう言った。
「そうね。ヴィオラ、戻りましょう」
「了解っすー。疲れたっすけど、もうほとんど出来上がったっすねえ」
家の方に歩きだしていると、ブルーノが様子を見に来ていた。
手には盆と、その上にコップが乗っている。
「お嬢様方、そろそろ休憩でもどうです?」
「ありがとうございます、ブルーノさん。とりあえず作業はひと段落しました」
「なんと、もう終わったということですかい?
最初は女手3人で大丈夫かと心配していたんですが、いやはや杞憂でしたな」
「それより独特な匂いっすね。これは何スか?」
「こら、ヴィオラ。ごめんなさいね、ブルーノ」
「はは、いいんですよ。これはハーブティですな。
あまり上等なものではありませんが、どうぞ召し上がってくだせえ」
「あざまっす。いただきまっす」
カーラとヴィオラが陶器のコップを受け取り、飲み始める。
湯気が立っていてまだ熱そうだ。
蕾椛は受け取るのを少しためらう。
「ほら、お姉さまも。飲まないのは失礼よ……?」
不意にカーラの表情がこわばる。
「お姉さま! 後ろ!」
「後方!
「ッ!
直後、蕾椛の身体が横薙ぎの衝撃によって吹き飛ばされた。
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