かつて、己の弱さに敗けて、けして赦されぬ罪を犯した。井戸へ沈めた。幸福の形を手に入れても、それはどこか、届かぬ所にあるようで。うつろな心の暗がりにむけて、あの井戸が呼んでいる。ぽとん。ぽとん。それに応えれば、己の罪の報いへと落ちるのだろうか。それとも、波紋の底に囚われての、安らぎの夢なのだろうか。
井戸に沈んだ過去と手に入れたはずの現在が、重なり合う物語。幸福の描写が美しく、その背後に潜む影が濃く感じられます。「水音」という一点のモチーフが、全編を貫いて心を締め付けます。読んだ後、現実と夢の境界がふっと揺らぐ。