第6章 お見合い編

第37話 天王寺龍鳳

 あかねに告白した翌朝、俺は彼女を迎えに行くことにした。


 思えばニセ恋人になってからこれまで、茜は毎朝のように俺の家まで迎えに来てくれていた。


 彼女は「べつに好きでやっているので」と遠慮気味だったが、こちらから迎えに行く日があってもいいだろう。


 俺も彼女への気持ちを伝えていきたいからな。


 それにしても……

 茜が住んでいる地域は、見るからにお金持ちの居住エリアって感じがする。


 周囲には見慣れない建物が立ち並んでいて、通行人たちからはどことなくリッチな雰囲気が醸し出されている。


 高層ビル群を見上げて首を痛めつつ、スマホでマップを確認しながら進む。


 そういえば、ついさっき『今日、折り入ってお話ししたいことがあります』なんてメッセージが来ていたな。


 告白絡みの話だろうか?

 いや、昨日の今日でそれはないか。


 いずれにせよ、早く彼女の顔が見たいなあ。


「……ん?」


 茜のことを考えながら歩いていると、前方にありえないほどさわやかな、金髪のスーツ姿の青年を見つけた。


 見るからに好青年で、嫌味が全くない。


 それでいて、何か大きなことを成し遂げそうな……オーラのようなものを感じる。


 ただ、それだけ見ていればそのまま通り過ぎただろう。


 見過ごせなかった理由は、彼が肩にかけたポーチを、物陰に潜む中年男性が狙っていることに気付いたからである。


 ——未遂で終わらせるのがいいだろうな。


 俺はタイミングを見計らい、跳び出してきた中年男性に脚をかけて転ばせた。


「なっ、なんだお前!?」


「通りすがりの高校生です。今、この人の荷物を盗もうとしてましたよね?」


 中年男性に圧をかけると、そのまま慌ただしく立ち上がり、逃げ去った。


「すみません、何やら助けてもらっちゃったみたいですね……?」


 金髪イケメンは俺に気付き、申し訳なさそうに頭を掻いている。

 なんだろう、この好感触。

 このなりで腰も低いなんて、いくらなんでも好印象が過ぎるぞ。


「助けただなんて、たいそうなことは」


「いやいや、ご謙遜を。よく気付いてくださった。おかげで貴重品の類を盗られずに済みました。本当にありがとうございます」


 彼は深々と頭を下げる。


 べつに感謝されたくて助けたわけではないが、ここまで素直に感謝の意を表されると助けた側も気持ちが良いものだな。


 世界がこういう人であふれていればいいのに。


「お時間さえよろしければ、ぜひともお礼をさせていただけないでしょうか?」


「ありがたいお誘いですが、実は、人を待たせていて」


「では後日、改めてということで。……ご都合の良いときに、この名刺のQRコードから友だち登録をいただければと」


 彼はそう言って名刺を差し出してきた。


「頂戴いたします」


 シンプルなデザインの名刺に視線を走らせる。


 なになに、天王寺スポーツ代表取締役社長、天王寺てんのうじ龍鳳りゅうほう……?


「あの天王寺スポーツの社長さんなんですか!?」


「てへへ……。実は、はい」


 金髪イケメン改め、天王寺龍鳳さんは再び頭を掻いた。

 どこか社長と呼ばれて照れくさそうである。


 そこへ、待ちきれなくなって俺を探しに来たらしい、俺の想い人が姿を現す。


「ヒロくん、おはようございま……って、え!?」


 茜は現れるなり目を丸くした。ありえないくらいの金髪イケメンが俺の隣にいたからかもしれない。


「おー、茜。おはよう」


「……」


 茜は今にも逃げ出しそうな姿勢でこちらを見ている。


「あの……もしかして、華宮かみやあかねさんかな?」


「……はい。初めまして、天王寺龍鳳さん」


 この二人、知り合いなのか?


「ヒロくん……」


 茜は俺にアイコンタクトを送る。


 なにやら先に伝えておきたいことがあったらしい。


(今日、お話したかったのは、今目の前にいる天王寺龍鳳さんとのことなのです——)


 俺は茜の心の声を聞き、衝撃を受けた。


 それでも表情を変えることなく天王寺さんに向き直る。


「天王寺さん、申し遅れました。佐藤ヒロと申します」


「佐藤ヒロくんですね。よろしくお願いします」


 彼の見た目は若々しいが、少なくとも20歳以上ではあるはずだ。俺の方が年下であるにも関わらず、丁寧に接してくれている。


「華宮茜さん、もしかして佐藤くんとはお知り合い……?」


「はい、天王寺さん。まずはヒロくんに説明しておきますね——」


 茜は顔を引きつらせながら口を開く。


「ヒロくん、実は……。天王寺さんは、私のお見合い相手なのです」


「おー、そうなのかぁ!」


 精一杯驚いたふりをする。茜の心の声で事情は察しているので、べつに新鮮味はない。ただ、直接言葉にされて、よりショックが大きいだけだ。


「天王寺さん、ヒロくんは私の――」


 言いかけた茜の言葉をとっさに遮り、俺は言う。


「友人です!」


 努めて明るい笑顔で、俺と茜の関係をそう言い切った。


「おお、ご友人でしたか。なるほど、です、ね……?」


 天王寺さんは不思議そうな顔をしている。


 恐らく、俺の表情と茜の表情の温度差に違和感を感じているのだろう。


 怖すぎて彼女の方を見れないが、今、俺の頬には茜からの凍るような視線が突き刺さっている。


(……ショック過ぎて言葉にもなりません)


 茜は心の中で俺への不満をぶちまけると、早々に場を切り上げる。


「天王寺さん、私たちは学校へ行きますので、このあたりで」


「ええ。佐藤くん、さっきは本当にありがとう。何か出来ることがあったら、連絡してくださいね! ではまた」


「またお会いしましょう!」


 軽く会釈して別れのあいさつを交わし、それが終わるやいなや強引に手を引っ張られた。


 引っ張っているのは言わずもがな、茜である。


「はぁーーーっ。……ヒロくん、学校まで少しお話ししましょうか」




———————————————————————————


お読みいただきありがとうございます!


さて、とんでもないことになってしまいましたね……。

不安になられた方もいらっしゃるかもしれませんが私から言えることはただ一つ。


この作品はヒロと茜の純愛でハッピーエンドです。

天王寺龍鳳はあくまでも完璧な善人で、『ヒロと茜が乗り越えるべき課題の象徴』でしかありません。


寝取られその他胸糞悪くなるようなことには絶対になりませんので、そこは信用して頂けますと幸いです。


皆様からの応援やコメントが、執筆の励みとなります。


もしこの作品を「面白い」「続きが気になる」と思って頂けましたら、ぜひページ下部の「★で称える」からのご評価や、作品のフォローなどで応援して頂けますと幸いです。


今後の活動のモチベーションに繋がりますので、何卒よろしくお願いいたします!!

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