第21話 河川敷の紅姫
そこ——河川敷に着いた俺と
「やっぱりそこに居たじゃん」
「……
西園寺の声掛けに、どこか安心したかのような声音の
ここまで来てくれるのを期待していたかのような、そんな顔だ。
「急に跳びだして行っちゃったら心配するじゃんっ、と」
そう言って西園寺は茜の隣に腰を下ろす。
「茜。——やきもち?」
「……ええ」
「だよね」
分かり切っている答えだった。
「ごめんね、茜。さっきのは自転車にぶつかりそうだったあたしを、ヒロくんが守ってくれたってだけ。私の不注意でああなっただけなんだよ」
事実をそのまま伝える西園寺。「だから怒るなら、私を怒って?」と。
しかし茜は。
「分かってるんです、そんなの」
「え」
「自転車に引かれそうになった知慧をかばうためだなんて、分かってるんです。見てましたから」
「ええぇ……」
見ててその状態なの? とため息をつく西園寺。
「だから私、二人には怒ってなんていません」
「ならどうして」
「失望したのです。自分自身に」
茜は膝を抱いて顔をうずめる。
「ヒロくんが知慧を自転車から守ったとき、頭では『さすがは私の彼氏』と誇らしく思えたはずでした。それなのに——この胸はどうしようもなく締め付けられて、気付いたら駆けだしていたのです」
「……」
西園寺は沈黙で、茜の言葉の先を促す。
「大好きな人と、大好きな親友。その二人が結ばれて、自分がのけものにされる未来を一瞬にして想像してしまったんです。そんなことをするような人たちじゃないって、分かってるはずなのに……っ」
「茜……」
すすり泣く親友の肩を、西園寺は優しく抱きしめる。
「私は、本当に小さくて、情けない女です。ごめんなさい、知慧。ごめんなさい、ヒロくん……」
「えへへ。許す。可愛いから」
西園寺は身体を寄せ、ふるえる茜の背中をゆっくりとさすり続けた。
しばらくして落ち着くと、「ほら、顔上げて」と茜に促す。
「彼氏が待ってるよ」
「……はい」
茜はそう言って立ち上がり、俺と向かい合う。
「ヒロくん、私——」
「茜」
俺は茜の言葉をさえぎって、彼女の身体を抱きしめた。
「えっ……?」
「ごめん、茜。ショックを受けるようなことをしてしまって」
「どうしてですか? 悪いのは私で、」
「どんな理由があろうと、茜を傷つけたのは本当だ。だから、ごめん」
「ヒロくん……」
「でも、何も言わないでどこかに行かないで欲しい」
華奢な体をさらに強く抱きしめる。
「ヒ、ヒロくん……??」
「茜。俺のそばに居てくれ」
「なっ!? は、はわわ……!?」
ごく至近距離にある茜の耳が真っ赤に染まる。
周囲から「ひゅー!」という歓声やら好奇の視線やら向けられるが気にしない。
「茜」
「ヒ、ヒロ、くん……っ」
茜は弱々しく俺の背中を叩く。
それから耳元で、俺たち以外に聞こえない小さな声でささやく。
「こ、これは、そのっ。やきもちの、演技だったのです。だから、」
「だから? どうしたって言うんだ」
「えっと、そのぉ……」
茜の指が俺の背中に食いこむ。
ふん、演技がどうとか今更白々しい。
(だめです。ドキドキ、止まりません……)
(無理しないでくださいって言いたいのに……)
(周りの人たちからの視線、すごく恥ずかしいのに……)
(離してほしくないから、言えません……)
お望み通り、しばらく離れてなんてやらない。
俺を心配させた罰として、これくらいしてやらないと気が済まない。
……とか言ってる俺も、正直恥ずかしいけどな。
「……俺のこれも演技だよ」
「……へ、へえ。そうですか」
それでこそ私のニセ彼氏ですね、などとのたまう茜。
「たださ、茜。西園寺にだけは本当のことを話してもいいんじゃないか?」
「……」
茜はコクリと首を縦に振る。
そしてどちらからともなく、抱擁を解いた。
「ヒロくん。喉乾いてますよね? コンビニにでも行ってきてください(知慧と二人っきりで話したいことがあるんです)」
「……ああ、分かった」
俺は茜の意図を汲み、最寄りのコンビニへ向かう。
彼女はニセ恋人関係のことを西園寺に打ち明けるつもりだ。
本来なら俺からもそれについて語るべきだっただろう。
その方がどちらかと言えば誠実である。
現状は俺と茜、二人で西園寺を騙していることになるわけだし。
でも茜は、俺が謝罪することを許しはしないだろう。
現在進行形で(私が始めた物語なので)と心の中で言って聞かない。
(責任の所在は私にあります)
——と譲らないのは目に見えている。
ホント、某マンガの主人公かよって。進撃の茜。うん、言い得て妙。
ともかく、ドリンクは何を買おうか。
少し長めに何を買うか悩んで、二人にはゆっくり話してもらう。
「悪かった」って言いながら西園寺に飲み物を渡そう。
きっとイイ感じにおさまるはずだ。
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