この作品は、人間の暗い感情が奇怪な連鎖と悲劇を生み出していく様子を描いたホラー小説です。
物語の冒頭では、一見すると何のつながりもない、奇異な点景が描かれます。
東京都で蔓延する奇妙な感染症。
正体の知れない視線を感じる患者。
拙い言葉で綴られた、苦しみと復讐の表明。
そして、人探しサイト「JINTAN(人探)dot.com」へ掲載された、ある奇妙な捜索依頼。
〝キリヒトの消息をご存じの方はお知らせ下さい〟
この依頼に対して、嘘の情報を書き込んだ者が死亡する事件が起きるのです。
物語は、ここから大きく動き始めます。
起きた事件の奇妙なところは、嘘を書き込んだ者だけではなく、その依頼人までもが命を落とすこと。
そして、キリヒト捜索の依頼が、また別の依頼者によって継続されていくことです。
この不可解な事件を皮切りに、作中では次々と奇妙な殺人が起こり始めます。
複数件の散発的な殺人と自死。
それらは一見すると、互いに何の関係もないように思えます。
読む者には、あたかも害意そのものが無差別に伝播し、波及しているかのようにすら見えます。
しかし、読み進めるうちに各々の事件に共通するある要素が浮かび上がってくるのです。
そして複数の事件の理由と経緯がわかった果てには、読み始めたときには思いもよらなかった結末が待っています。
そうです。本作には、怪異の謎を追う愉しみも仕組まれているのです。
ミステリーとしての魅力も多分に含まれた、ホラー小説なのです。
そして、その謎について考える過程で、読む者自身がより恐ろしい想像をしてしまうことでしょう。
〝眼前の恐怖も、想像力の生みなす恐怖ほど恐ろしくはない〟
シェイクスピアのこの言葉のように、自分の頭の中に生み出してしまう恐怖のほうが、目にする恐怖よりも怖い。
本作は、まさにそんな恐怖を孕んでいます。
考えれば考えるほど、怖くなる。
防ぐことのできない想像の怖さを抱えながら、読者は物語に散りばめられた謎を辿っていくことになるのです。
怖い話をずっと読んでいたい方には、ぜひお勧めしたい作品です。
そして、このお勧めレビューで書いているうちに、本作のタイトルが気になってきました。
タイトルの言葉には、おそらくいくつもの意味が重ねられていると思われます。
語音だけを取れば、歯茎の疾患を思わせる地口のようにも聞こえます。
語句として捉えれば、作中の〝死体〟に〝集る〟存在を指しているのかもしれません。
そして──これはきっと、気のせいなのでしょうけれども。
この言葉は、死や屍という忌まわしい事柄を、娯楽として読み、書き、そして楽しんでいる私たち自身を指しているのではないか。
そんなふうにも思えてくるのです。
つまりは、私もあなたも〝屍集病〟なのかもしれません。
【レビューコンテスト応募】
最初は東京で未知の感染症が流行っているという話、それからあるクリニックの診察で、ずっと誰かに見られている気がすると語る男性の話、謎の人物の独白、ある人探しサイトの書き込み……と一見、無関係に思える話が続いていく。
しかし本作の資料やエピソードにある人物の名前がよく出てくる。
それはキリヒトという男だ。
読み進めていくと、どうやらキリヒトという人物に、深い恨みを抱き、彼を探している人物がいるらしい。
キリヒトとはいったい何者なのか?
なぜこんなにも恨まれているのか?
他にも、気になることがある、それは作中によく虫が出てくることだ。
この虫はなんなのだろうか?
魅力的な謎に惹かれ、読んでいくと、一見バラバラに思えた話が徐々につながってくる。
そして物語の全体像が見えてくると、強烈な恐怖を味わうことになる。
モキュメンタリーの醍醐味がしっかりと味わえる作品でした。おすすめです。
悪意が伝染していくことは、ネットへの書き込みにより特定個人が標的となる事件が日常化したことで理解されました。
冒頭から紙面を埋め尽くすネット掲示板への書き込み。正しく現代における悪意の伝染と思われた事件が、徐々に更なる深みへと暗転していきます。
真相は小出しにされ、そんな話は聞いていないと読者は狼狽えます。これはホラー。公平な条件で犯人捜しを楽しむのでなく、微々たるが抗えぬ力に日常が侵される不条理。
元々、社会は不条理だから、不条理は無くすのでなく耐性をつけるべき? そう仰るなら、他人に悪意を向けることは「本能」という言葉で許されますか? それが人間ですか? それこそ人間らしい振るまいと仰いますか?
ヒトコワと言えども、自覚した悪と憑依されて為す悪は違うのです。
まずこのタイトルで強く心を引っ張られます。
「屍集病」。音の響きだけ聞くと、歯ブラシとか歯磨き粉のコマーシャルで出てきそうな感じ。
その名を冠するホラーとは、一体どんな内容なのだろうと手に取らずにいられなくなります。
そして始まる本編。「屍が集まる病」の名の通り、各地で凄惨な事件が起こることに。
殺意に囚われ、「キリヒト」なる人物を探そうとする者。それに対して面白半分でちょっかいをかけた人間が悲惨な目に遭う。
何かが「感染」していくかのように殺意が蔓延し、発生し続ける惨劇。
果たして、この異変の裏にあるものはなんなのか。
事実が全て見えた時、最後に見える光景がまた切ない。
生と死の極限の状況で主人公たちが決断しなければならないもの。世界から倫理や常識が通用しなくなっていく姿を描き出した、壮大なスケールのホラー作品です。
と或る人探しサイトに出ている、不可解な
情報提供の依頼。『キリヒト』を探している
依頼者 たち は、嘘の情報提供者を残忍な
方法で処罰する。しかも、その背景には
悍ましい蟲たちの蠢きが。
また、一方では。
日本各地で不可解な事件が頻発していた。
突然の衝動、精神的な譫妄と錯乱。暴力に
歯止めが掛からずに、恰も目には見えない
モノに操られるが如く、凶悪な事件が
続発してゆく。
一見、全く関わりのない様に見える
この二つの現象には、唯一の 共通点 が。
シデムシ という種類の昆虫。
生きたまま、或いは死んだ後に死出蟲に
喰われ蹂躙される被害者たちに狂気を齎し
破滅させるのは、一体
何者なのか。
まるで未知の病原体によるパニックホラーの
様相を呈するも、後半それが悉く覆される。
まさに、
理に適った不条理。
その言葉が最もこの作品を克く表している。
そして、この世の中には科学、非科学に
関わらず、得体の知れない モノ が山と
在る事を教えてくれる。
世に警鐘を鳴らす、ホラー。