小骨

くー太郎

小骨

「久しぶり」


「あっ、お久しぶりです」




「何読んでんの?」


「え?すげーレベル低い本ですけど…」


「レベルなんてどーでも良いじゃん。慎太郎君が今どんな本読んでるかが知りたいの」


「はぁ」




「ふーん、心理学の参考書かぁ。カラーで読みやすいね」


"レベルが低い" を "読みやすい"

俺なりにポジティブな言い換えをしてるんだけど、君は気付いてるのかなぁ。



いつからだろう

君が自身を下げるようになったのは



「圭治さんは凄いですよね。△△大学だって。僕は全然、✕✕大学なんて知ってます?」


「え~?普通に知ってるよぉ」



そして、人をおだてるようになったのは



「マズローの欲求階層説だって、何か難しそー」


「マズロー、高校で習いませんでしたっけ?」


「そうかー?全く覚えてない」


俺は馬鹿を演じる。

君に自信を持ってほしいから。

君は俺を何か凄い人間だと思っているみたいだけど、それは過去の栄光で形作った俺だ。それ以外はなーんにも見てくれない。許してくれない。そのせいで、俺は弱みを見せる機会を失ってしまった。


家庭環境か、はたまた学生時代の人間関係か、君はいつからこうなったんだ。


俺は君のトクベツになりたい訳じゃない。

人生の転換点になりたい訳じゃない。

ただ、小骨のようにチクッと残りたいだけなんだ。そして、いつか君に、君自身で、気付いてもらいたいだけなんだ。



次は──── ○○── ○○── お出口は──────


「俺ここだから。じゃあ、またね」


「あっ、はい。さようなら」



当たり障りの無いような笑顔で手を振る。でも、なんだか泣きそうになる。


君は誰と比べているんだ?


僕は君と話していたのに、君は不特定多数と話していたんだね。


胸のチクッとした微かな痛みに、下まぶたが痙攣する。




電車がホームから完全に去った。





はぁ──ぁ。めんどくせーなぁ。承認欲求の塊が。

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小骨 くー太郎 @ku-taro906

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