第14話 忘却の森
ギルドへ戻ったルカは、息つく間もなくアイラへ問いかけた。
「アイラさん、あの占い師……あのエルフの少女は、俺の勇者の力は『心』にあると言いました。でも、どうすればその心を引き出せるんですか? 今の俺のままじゃ、ただの足手まといです!」
アイラは、静かに羽ペンを置くと、名簿から目を離してルカを見つめた。
その瞳は、いつになく真剣だった。
「……力が引き出されるのは、自分自身を追い込んだ時ではありません。守るべき誰かと、自分の命を天秤にかけた時です。」
彼女は、カウンターの下から古びた地図を取り出した。
「王都の北、霧深き『忘却の森』。そこに、とある謎めいた老人が住んでいます。彼なら、あなたの『剣の根っこ』がどこにあるのかを教えてくれるはずです。」
ルカは地図をひったくるように受け取ると、すぐさま王都の門を飛び出した。
忘却の森は、昼なお暗い場所だった。
木々は異様にねじれ、足元には湿った泥が溜まっている。
歩き始めて数時間。ルカの革鎧は泥に汚れ、額には冷や汗が浮かんでいた。
ガサリ。
藪の中から、鋭い鳴き声とともに二匹の『森狼』が飛び出してきた。
赤く光る眼、滴る涎。
「くっ……!」
ルカは身の丈ほどもある剣を構える。
一匹が跳躍した。
ルカは必死に横へ転がる。
どさっ、と鈍い音を立てて倒れる。剣が重い。腕が思うように動かない。
「うおぉぉっ!」
気合とともに剣を横薙ぎにするが、狼は軽々とそれをかわし、ルカの腕に鋭い爪を立てた。
痛みが走る。
ルカはなりふり構わず、背負っていた鞄を狼に向かって投げつけ、その隙に立ち上がって木々の影へと駆け込んだ。
心臓が破裂しそうなほど脈打つ。呼吸が荒い。
狼たちの咆哮が遠ざかっていくのを確認し、ルカは古木に寄りかかって膝をついた。
「……情けない。」
自分の手が、激しく震えている。
魔物を一匹追い払うことさえできない。
これが、今の俺の現実だ。
悔しさと死への恐怖で涙がこぼれそうになるのを、ルカは歯を食いしばって飲み込んだ。
傷口を布で縛り、再び歩き出す。
そしてルカは初めての宝箱を発見する。
『硬質プラスチックで覆われた、謎のガラス付きの板』※見た目はどう見てもスマホ※を手に入れた。
「石板か⋯??」
使い道はよく分からないが初の宝物としてあとでアイラに聞いてみよう。
そのあと、どれくらい歩いただろうか。
霧が少しずつ晴れ、森の奥に不自然なほど静かな開けた場所が見えてきた。
中央には、小さな粗末な小屋。
その縁側で、一人の老人が黙々と、一本の剣を研いでいる。
キン、キン……と、乾いた研ぎ音が、静寂な森に響き渡る。
その老人は、どこか不思議な雰囲気を纏っていた。
ぼろぼろの服を着ているのに、立ち居振る舞いには、洗練された気品が漂っている。
そして、何よりその目が……数え切れないほどの戦場と、途方もない孤独を見てきた者の鋭さを宿していた。
「……あの、すみません。あんたが、この森の……謎の老人ですか?」
老人は研ぎ音を止めない。
ただ、背中を向けたまま、低い声で呟いた。
「……随分と軽薄な剣を持ってやってきたものだ。その剣、何のためにそこに腰からぶら下がっている?」
ルカは言葉に詰まった。
強くなりたいから? 勇者になりたいから?
どれも違う気がした。
老人はゆっくりと振り返った。
その眼光は、森の木々を見通すほどに鋭く、そしてどこか悲しげにルカを見据えた。
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