第22話 村の青年視点
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――第三者視点――
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その青年、ニイルは村長の息子ハボネの取り巻きをしている農家の次男で、今年17歳になった。
畑を分けてもらえない彼は、ハボネに擦り寄り将来は村長の補佐役などで食っていこうと考えている。村の集会所に置いてある経本のおかげで文字は読めるし、ちょっとした手紙だって書ける。頭の良さでは仲間たちの中では一番の自負があった。
冬越しの時期が終わり、その年初めての露店を眺めながら、去年の夏の終わり頃を思い出していた。
◇
「最近のハボネはスゲーよな!もう立派な村長みたいだ」
「村をでっかくする思いつきなんて、大人みたいだよな」
「森を拓いて畑を拡げるアイデアは僕が思いついてハボネに提案したんだ」
「すっげー。頭良いなニイル」
森を拓く労力も、畑の広さで税金が変わる事も知らないニイルは得意気に胸をそらす。
ハボネはリスからミナを奪った頃から頼もしくなった。ハボネはいつも、目立たなく大人しいリスを意識していて不思議に感じていたが、ミナが原因だったと納得がいった。
「小川の向こうには行くなよ、ハボネとミナがいるから」
「覗きに行こうぜ」
「ヤマクハの木の間からならバレないぞ」
下世話に騒ぐ仲間に呆れて一人広場へ向かった。今日は行商が来ているのだ。途中で麻袋を抱えた女衆2人が向かいからやって来て、目が合うなり盛大に顔をしかめられた。
「あんた、16歳にもなって働きもしないでフラフラして。せめて親の手伝いでもしな」
「まったくだよ。リスを見習いな。同じ次男でもあの子はよく気の利くいい子だったよ。」
「あんないい子を意地悪して追い出すなんて」
「あの子は賢い子だったから、ギライさんが欲しがってたんだよ」
「働き者だしね」
「ねー」
目があっただけで怒涛のように咎められた。だからオバサンは嫌なのだ。それにリスが賢いだと?バカバカしい。ニイルのプライドが大きく刺激された。
苛立ちを抱えて広場に着くと、客足が途絶えてぼんやりしている行商人のギライがいた。
「まいどー。何が入り用かい」
「特にはないんだけどさ、リスはちゃんと働けているの?」
「ああ、あいつ?よくやってくれてるよ」
「ふぅん」
あいつに出来るなら自分の方が上手くやれる。村長の補佐も良いが、行商人の足がかりがあるなら町に出て働くのも悪くないかもしれない。その思い付きは中々良い気がした。
「なら、リスを村に戻してさ、僕が代わりに働こうか?」
「んんー?」
「オバサンどもが、リスがいないとうるさいんだよ。何故か気に入られていたらしくてさ。僕だって行商の手伝い位できるよ。文字だって書ける!」
「……なら、こいつが50ギン、こいつが30ギン。足していくらだ?」
「えっと……80ギンだ」
「やるじゃないか。じゃ次。これは110ギン、これは……」
次々言われてあたふたと記憶する。
「で、こいつが3個とこれとこれが1個ずつ。銅貨4枚出されたら、釣りはいくらだ?」
「急に言われたって分かるわけ無いだろ!」
「リスは分かるぞ」
「嘘だろ?!」
反射的に言い返すが、ギライは何でもないように言った。
「リスは分かる。もちろん読み書きも出来る。朝から晩までよく働くよ。」
返す言葉も出ない。
「そんな事より、最近調子はどうだ。ハボネ坊っちゃんは元気かい?」
「ハボネは元気だよ。今度畑を広げてくれるんだ。じゃあ、僕は忙しいから!」
言い捨ててその場を離れた。
◇
今になって考えれば、町に出ても行商人に扱き使われて苦労するに決まってる。
村の中が一番安全なのに馬鹿なことを言った。
あれ以降ギライは来なくなり、代わりに来るようになった行商人に村の開拓のための道具を頼んだが、理由をつけては断られる。最近はミナの体調が悪くてハボネの機嫌も良くない。
今日も道具を頼もうと近づいた。前回の行商人とはまた違う男だ。
「……で、丈夫な縄、斧にツルハシ、あとカゴや色々……出来るだけ早く用意してほしい。村から費用は出せるはずだから」
ニイルが話し終えると、整えた口ひげの男はおもむろに言った。
「なるほど、知識が無いながらも考えたわけだ」
「どういう意味だ?」
カチンときて言い返すと、男は笑った。
「気を悪くさせたか。いやね、この村に頭のよく回る銀髪の少年がいると聞いていたんだ。髪の色は少し違うがお前の事だったのかな?」
リスの事が頭に浮かんだが、夏にはこの村を出ている。
ニイルの髪はくすんだ灰色で、17歳になったばかりだ。頭の回転が良い少年となれば、自分の事に違いない。
「それは、僕のことだ。僕は読み書きができるし、計算も……できるよ」
噂されるほどだと思わなかった。思わず口角が上がる。
「そうかそうか!お前、王都に興味はないか?今なら俺の下働きに雇ってやるぞ」
「王都?!」
「王都には貴族様が通う学園があってね、俺はそこに出入りを許されているんだが、手伝いを探していたんだ。どうだ?いい話だろう」
最近思うように物事が進まなくて不満が溜まっていた。そこへ、王都の貴族が通う学園に出入りできるなんて夢のような話が舞い込んできたのだ。断る理由などなかった。
村の開拓なら、ハボネがいればなんとかするだろう。
ニイルは付いていくと即決すると、家に戻って最低限の荷物をまとめた。そしてハボネ達への挨拶も、親への別れの挨拶すらそこそこにして、その行商人と村を出て行った。
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