〈喫茶アーバンテイル〉にはいくつもの奇譚が寄り集まる。
確かに在るけれども目には見えない何か。
視線、匂い、音、虚像、味覚、記憶、そして怪異。
この物語は五感で味わうビターテイルだ。
それに、もしかすると物語の本質を読み解くには第六感も必要かもしれない。
「アーバンテイル」という名称も言い得て妙な店名であり、アーバンレジェンド、フォークロア、ネットロア……そういったものをよりあわせたかのような奇妙な語呂である。
不可思議な事情を抱えた人々の寄る辺となっている場所で語られる怪異譚という点では、いわゆる「奇譚クラブもの」というのもいいかもしれない。
どこか人好きのするマスターと常連客さん。オカルトマニアくん。主要登場人物もキャラクターが立っていて、その関係性にも要注目だ。
常連客さんが、ほろ苦い現実の物語を甘やかに誤魔化すように珈琲に砂糖を三つ混ぜる描写がなんだか艶めいていて、目が離せなくなること間違いなしである。
一説には、都市伝説とは本当にあったとして語られる『実際には起きていない話』であるという。
それならば怖くはないだろう。
——ぜひ、深入りしてみてはいかがだろうか。
喫茶店という、とても身近で落ち着いた場所を舞台にしているのに、そこへ一つ怪異の話が持ち込まれるだけで、日常の風景が少しずつ違って見えてくる。
この感覚がとても面白い作品です。
「喫茶アーバンテイル」でマスターたちが怪異について語り合うという構成も良いですね。怖い話をただ怖がるのではなく、「これは本当に怪異なのか、それとも別の理由があるのか」と考えながら読み進められるので、ホラーでありながらミステリーを読んでいるような面白さもあります。
そして何より、怖さの出し方が派手すぎない。
大きな音で驚かせるような恐怖ではなく、「あれ? なんかおかしくないか?」という小さな違和感が少しずつ積み重なっていく。
その違和感が気になって、もう少しだけ読もう、もう一話だけ……とページを進めてしまいます。
喫茶店でコーヒーを飲みながら怪異譚を聞いているような、独特の落ち着いた空気感も魅力的です。
でも、その落ち着きがあるからこそ、ふとした瞬間にゾクリとする。
日常と非日常の境目が曖昧になっていく感じが、とても好みでした。
怪異そのものだけではなく、「人間がどう受け取るのか」によって怖さや意味が変わってくるところも面白いです。
まだまだこの先にどんな怪異が待っているのか気になりますし、アーバンテイルという場所そのものについても、もっと知りたくなります。
怖いのに、なぜかもう一杯コーヒーを頼みたくなる。
そんな不思議な余韻を残してくれる作品でした。
喫茶店で交わされる何気ない会話から始まる、少し不思議な怪異譚です。
【少しずつ積み重なる不穏】
最初はちょっとした違和感だったはずなのに、一つ、また一つと不穏なものが重なっていく。
読み進めるほど「これ、どうなってるんだろう」と先が気になり、それでいてどこかゾクリとするような感覚がありました。
【人の怖さと怪異の怖さ】
怪異そのものも怖いのですが、それだけでは終わらないのが面白いところ。
人の感情から生まれる怖さまで混じり合って、何が一番怖いのか分からなくなってくる。こういう怖さの重ね方もあるのかと、ゾクッとさせられました。
自分でも物語を書くからこそ、この構成の上手さには唸らされます。
【心に残った名台詞】
――好奇心は猫をも殺す
怪異の正体を知りたくて、ついつい覗き込んでしまう。読み手にも向けられているようで、妙に印象に残った言葉です。
少しずつ積み重なっていく不穏さに、じわじわと浸りたい方へ、オススメしたい物語です。
怪異を題材にしているのに、読み終えたあと心に残るのは「怖さ」だけではなく、人と人が言葉や気持ちを通わせる温もりでした。
特に喫茶店で怪異を頭ごなしに信じも否定もしない姿勢がとても好きです。伝承を楽しみながら現実の可能性にも目を向けるので、「本当は何だったのだろう」と読者自身も自然に考え始めてしまいます。私は階段の足音と、物語の終盤で響く別の足音がどこか重なるように感じられた場面が忘れられません。同じ音なのに、受け取る人の心で意味が変わるのではないか…そんなことを考えながら余韻に浸っていました。
コーヒーの香りに誘われるように怪異譚を味わい、少しだけ誰かに優しくなりたくなる、不思議な読後感があります。ホラーが苦手な方でも読みやすく、妖怪や都市伝説が好きな方はもちろん、日常ミステリーや人情ドラマが好きな方にもぜひ一度手に取ってほしい作品です。静かな一杯のコーヒーが、こんなにも奥深い物語へつながるとは思いませんでした。
【レビューコンテスト応募】
物語の舞台は、喫茶店アーバンテイル。
マスターと、そこにやってくる客との間でやりとりされる会話。
そこに潜む怪異とミステリーがとても面白いです。
物語は短編連作として進んでいきますが、私のお勧めは、「第4話 不完全甘味」。
いや、第1話の「視られすぎた女」もいいんですが、4話には独特の後味の悪さが残ります。それこそ、ねっとりとした甘み、というか。甘さって度がすぎると苦みに近くなりません?
また、マスターは客にニックネームをつけています。
第4話なら、「お疲れ会社員さん」とか「パワフル社長さん」など。
これがめちゃくちゃいい。
名前なんかよりも属性や特徴をとらえていて、とてもすんなり話が頭に入るんですよね。
(そしてなぜこのようなニックネームがつけられているかについては、近況ノート等をご覧ください。なるほど、とうなずけます)
夏真っ盛りのいま。ぜひ、涼をとりにこの喫茶店アーバンテイルへお越しください。
喫茶店を舞台に、日常に潜む怪異を丁寧に紐解いていくオムニバス形式の構成が秀逸な作品です。マスターと「常連客さん」との軽妙な掛け合いは知的好奇心をくすぐり、妖怪や都市伝説の由来を科学的・合理的に解釈し直す視点が、単なる怖い話に留まらない読み応えを生み出しています。それぞれのエピソードは独立していながらも、じわりと積み重なる違和感が全体を貫く緊張感を作り出しており、伏線の張り方に唸らされます。会話文のテンポの良さと、日常描写の細やかさが融合し、読者を心地よく物語世界に引き込む筆力は見事です。じっくり読ませる知的なホラーとして完成度の高い一作です。