怪異を題材にしているのに、読み終えたあと心に残るのは「怖さ」だけではなく、人と人が言葉や気持ちを通わせる温もりでした。
特に喫茶店で怪異を頭ごなしに信じも否定もしない姿勢がとても好きです。伝承を楽しみながら現実の可能性にも目を向けるので、「本当は何だったのだろう」と読者自身も自然に考え始めてしまいます。私は階段の足音と、物語の終盤で響く別の足音がどこか重なるように感じられた場面が忘れられません。同じ音なのに、受け取る人の心で意味が変わるのではないか…そんなことを考えながら余韻に浸っていました。
コーヒーの香りに誘われるように怪異譚を味わい、少しだけ誰かに優しくなりたくなる、不思議な読後感があります。ホラーが苦手な方でも読みやすく、妖怪や都市伝説が好きな方はもちろん、日常ミステリーや人情ドラマが好きな方にもぜひ一度手に取ってほしい作品です。静かな一杯のコーヒーが、こんなにも奥深い物語へつながるとは思いませんでした。
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物語の舞台は、喫茶店アーバンテイル。
マスターと、そこにやってくる客との間でやりとりされる会話。
そこに潜む怪異とミステリーがとても面白いです。
物語は短編連作として進んでいきますが、私のお勧めは、「第4話 不完全甘味」。
いや、第1話の「視られすぎた女」もいいんですが、4話には独特の後味の悪さが残ります。それこそ、ねっとりとした甘み、というか。甘さって度がすぎると苦みに近くなりません?
また、マスターは客にニックネームをつけています。
第4話なら、「お疲れ会社員さん」とか「パワフル社長さん」など。
これがめちゃくちゃいい。
名前なんかよりも属性や特徴をとらえていて、とてもすんなり話が頭に入るんですよね。
(そしてなぜこのようなニックネームがつけられているかについては、近況ノート等をご覧ください。なるほど、とうなずけます)
夏真っ盛りのいま。ぜひ、涼をとりにこの喫茶店アーバンテイルへお越しください。
喫茶店を舞台に、日常に潜む怪異を丁寧に紐解いていくオムニバス形式の構成が秀逸な作品です。マスターと「常連客さん」との軽妙な掛け合いは知的好奇心をくすぐり、妖怪や都市伝説の由来を科学的・合理的に解釈し直す視点が、単なる怖い話に留まらない読み応えを生み出しています。それぞれのエピソードは独立していながらも、じわりと積み重なる違和感が全体を貫く緊張感を作り出しており、伏線の張り方に唸らされます。会話文のテンポの良さと、日常描写の細やかさが融合し、読者を心地よく物語世界に引き込む筆力は見事です。じっくり読ませる知的なホラーとして完成度の高い一作です。