この景色は私のもの

ノア

〈この1話で完結となります〉

 「本日、△△県も梅雨入りしたと報じられました」

このニュースを聞いて、ほとんどの人間は憂鬱に思うだろう。でも私は違う。だって――


 放課後、私は真っ先に幼馴染の隼人の元へ行く。

「ねーはやとー、傘忘れたー。助けてー」

「なんで持ってきてねぇんだよ…天気予報見てねぇのかよ」

「うん」

「いや『うん』て…」

呆れながらも隼人は傘に入れてくれる。幼馴染とはいえ、男女が相合傘。すれ違う全員が二度見して、翌日は噂が学年中に広がる。好きなだけ噂してくれればいい。自分が傘をさす側のくせに自分の右半身を濡らしているところ。じーっと横顔を見ていると鬱陶しそうな目で「んだよ」と吐き捨てるところ。狭い道を通るときは私に傘を預けて後ろをずぶ濡れになって歩くところ。どれも私しか知らないし、他人に教えるつもりなんてないんだから。

「ほら、さっさと入れ」

「あんがとー」

「いい加減天気予報くらい見ろよ」

「えー、傘持って来るの面倒だしちょうどいい傘はいるしやだー」

「オレが休みの日はどうすんだよ」

「え、逆にそれ以外は入れてくれるんだ?」

「はぁ!?そ、そうは言ってねぇし!」

「なに照れてんのー」

今日はちょっと豊作の日かも。照れる隼人って珍しいんだよね。


 あ、もうすぐ終わっちゃう。ちょっと遅く歩いたってあんまり意味ないし、遅く歩いたら歩いたで会話が続かなくて難しい。

「はい到着、じゃあな」

「ばいばーい」

隼人とは住宅街の向かい同士だから、家に入るギリギリまで手を振る。本当は飛び跳ねたいくらいだけれど流石に滑っちゃうし手をブンブン振るので我慢してる。明日学校に行ったらまた噂になってるんだろうな。うちの学校の梅雨の風物詩らしい。悪くないじゃんね。


♢♢♢


 「本日、△△県も梅雨入りしたと報じられました」

このニュースを聞いて、ほとんどの人間は憂鬱に思うだろう。でも美沙は違う。だって――


 放課後、幼馴染の美沙は真っ先にオレの元にやってくる。

「ねーはやとー、傘忘れたー。助けてー」

「なんで持ってきてねぇんだよ…天気予報見てねぇのかよ」

「うん」

「いや『うん』て…」

本当は知ってる。こいつはわざと忘れたーと言ってきて、相合傘ってやつ?をしようとするんだ。だって前に、朝は傘を刺してたくせに忘れたーと言ってきた。あーこいつオレのこと好きなんだ、ってわかった。幼馴染とはいえ、男女が相合傘。すれ違う全員が二度見して、翌日は噂が学年中に広がる。そして噂が広がるたびにこいつは満更でもなさそうな顔をする。まぁオレも、悪くないって思ってるし、なんだかんだでいっつも入れてやってしまう。

「ほら、さっさと入れ」

「あんがとー」

「いい加減天気予報くらい見ろよ」

「えー、傘持って来るの面倒だしちょうどいい傘はいるしやだー」

「オレが休みの日はどうすんだよ」

「え、逆にそれ以外は入れてくれるんだ?」

「はぁ!?そ、そうは言ってねぇし!」

「なに照れてんのー」

なんでオレの方が顔赤くしてんだ。こいつが顔真っ赤にして俯くべきじゃねぇのかよ。


 美沙は毎度、家に近づくと「あ、もうすぐ終わっちゃう」って感じの顔をして、ちょっと歩くのを遅める。気持ちは分かるけど会話が続かなくなるから勘弁してくれって思う。なんか嫌じゃないけど。

「はい到着、じゃあな」

「ばいばーい」

美沙とは住宅街の向かい同士だから、こいつは家に入るギリギリまで手を振る。一回飛び跳ねて尻餅ついてた。くっそダサかったけどちょっと可愛かった。明日学校に行ったらまた噂になってるんだろうな。うちの学校の梅雨の風物詩らしい。悪くないかも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この景色は私のもの ノア @Xmas_O8O_

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ