このカクヨムだけでなく世の中には様々な小説があります。
どのジャンルでも、物語に波があり、感情を揺さぶられるからこそ、心に残るのだと……そう思ってました。
しかし、この作品を読んでみると、実はそうでもないんだなと考えを改めるきっかけになりました。
感情を揺さぶれば、心に強く残るかもしれないけれど、心は疲れてしまう。
その点、この物語は、強く感情を揺さぶるものではないと考えています。
ありのままの感情を受け止め、刺激を求める人の心を洗い流してくれる……自分にとってはそんな小説に感じました。
読み進めるたびに、高揚して火照った心を中庸に戻してもらっているような気がします。
刺激が強いコンテンツに溢れた現代だからこそ、こういった小説には惹かれてしまうのかもしれません。
なにも起きない物語だと、作者様はおっしゃいます。
言葉に偽りはなく
物語の舞台は英雄譚のエピローグ。
勇者はいる。
活躍は語り継がれ、人々を興奮させている。
英雄が取り戻したあとの平和に
これからも生きる人々がいて。
その平和の中には、勇者もいる。
戦いが日常だった彼が
何気ない本物の「日常」へ溶けていく。
そんな風景を「異質」と眺める人。
いつの間にか「当たり前」に受け止めている人。
勇者はその違いを嗅ぎ分けている。
そして、後者の匂いがする方へ何度も足を運ぶのだ。
そして、帰る場所を得ていく。
それだけ、と言ってしまうには惜しい。
とても静かで、劇的な日常。
優しく、暖かく。巧みで、美しい筆致で編まれていく日常。
極上の価値がある静けさである。
この物語に出会えた幸運を抱いて、
ただそっと、幸せなため息をつくのでした。