第31話 15歳のイングリス・天上人が支配する街2

「「天上人ハイランダー!?」」


 その情報は知らなかったので、イングリスもラフィニアも驚いた。


「ああ違いましたっけ? 国王様の直轄地になって、そこを天上領ハイランドに貸したんでしたっけ? そういう事には疎くって」

「……まあ、そうしておいた方がいいでしょうね」


 実態はどうあれ、あくまで国王が貸しただけであり、奪われたわけではないという体裁を整えないと、領土を守れない国王として、その威厳は失墜するだろう。

 あくまで評判の良くない領主から領地を召し上げた、という国王の英断が先にある形にすれば、前の領主が悪く国王は悪くないという名目は出来る。

 ――実際は天上領ハイランドからの要求に抗いきれずに、領土を割譲させられたのだろうが……


 天上領ハイランド側の利点は何だろう?


 天上人ハイランダーに植民させる?

 ――しかし、一般的な天上人ハイランダーの意識として、地上に住む事を良しとするのだろうか?

 天上領ハイランドに住む事が特権意識の源のような気もするが。


 固定的に地上の作物その他を上納させるための土地が欲しかった?

 その方が、逐次魔印武具アーティファクトを下賜する見返りに献上させるよりも安くつくのかも知れない。


 地上に行政官を配置し、直接支配させるのはそれなりに危険性もある行為だ。

 地上の人々の反発を煽りかねない。

 そうなれば、血鉄鎖旅団のような反天上領ハイランドの運動を勢いづかせる。


 ――いや、その程度歯牙にかけない程、天上領ハイランドは圧倒的な戦力を持っているのか?

 究極の魔印武具アーティファクトである天恵武姫ハイラル・メナスを下賜するくらいだから、それが逆に牙を剥いた時に抑える手段はあるのだろう。


 だとすれば――魔石獣の虹の王プリズマーとやらを倒し、武器化した天恵武姫ハイラル・メナスを振るう状態の聖騎士との手合わせを制したら、今度は天上領ハイランドをつつけば何か秘密兵器が出てくるかもしれない。


 それはそれで、面白そうだ。

 その時は身の振り方を考える必要があるかも知れないが――


「ひ、酷い目には合っていないんですよね?」


 イングリスやラフィニアは天上人ハイランダーと言えばラーアルしか知らない。

 その印象が良くないため、ラフィニアがどうしても心配になってしまうのは分かる。


「いいえさっき言ったように、むしろ前より暮らしやすくなりましたよ。まあ、御領主がごろつきみたいなのは追放なさったせいで、売り上げは少し落ちましたけどねえ――ここは夜は酒場ですから」

「そうなんですね……」

「でも、身寄りのない子供や動けなくなった病人なんかは、城に住まわせて面倒を見てくれるんですよ。それを見てると、あたしがそうなった時にも安心ですからねえ。いい御領主に来て頂いてよかったですよ」


 と、女性は笑顔を見せている。


「いい天上人ハイランダーもいるんだね……ねえクリス?」


 そう驚いているラフィニアが、天上人ハイランダーをどう思っているかは明白である。


「そうだね――見てみるのもいいかもね? 行って見ようか?」


 いい機会かもしれない。

 自分もそうだが、ラフィニアの見識を広げるために――だ。


「そうしよ! 追加の木苺のパイを食べてからね!」

「うん」


 追加分もしっかり平らげてから、イングリス達は街の中心にある領主の城へ向かった。


 そこで傭兵の応募に来た旨を告げると、ラフィニアは少し話しただけで即採用だった。

 やはり上級印の光の弓の魔印ルーンと、上級魔印武具アーティファクトの組み合わせは、インパクトが絶大である。

 イングリスはラフィニアの従騎士なので基本的にいてくれて問題は無いが、一応という事で腕試しをする事になった。


 城の中庭にて、騎士たちのまとめ役だと言う大柄な騎士と対峙する事になった。

 まだ若く、二十代の前半だろうか。

 体格は立派なのだが、決して厳めしい感じではなく、むしろ穏やかで紳士的な印象だ。


「オレはナッシュだ。済まないが君の腕試しをさせて貰う。無理に前線に出て大怪我でもさせちゃ、こちらも申し訳ないからな」

「ええ構いません。わたしの身を案じて下さっての事でしょうし」


 それぞれに木剣を携えての試合形式である。


「ふぁ~クリスにそんなことしても無駄なのになぁ……」


 その場に集まった騎士や傭兵たちが見守る中、ラフィニアだけ欠伸をかみ殺していた。

 が、この衆人環視の中で腕をある程度見せておけば、皆に余計な心配をさせる必要も無いし、煩わしい絡まれ方をする事も無いだろう。

 ある意味ありがたい機会だと言える。


 なので、ここはあっさりと、実力差を見せつけておくべし。


「よし、いいぞ打ってこい!」

「では」


 イングリスは真っ向から突っ込み、ナッシュという騎士の剣を払う。

 全く反応出来ずに、ナッシュの手から木剣がすっぽ抜けて飛んで行く。


「な……!?」


 唖然としている隙に、がら空きの腹に掌打を打ち込む。


「ごわっっッ!?」


 ナッシュは体をくの字に折り曲げ、後方に吹っ飛んだ。


「「「おおおおおおぉぉぉっ!?」」」


 驚愕のどよめきが、周囲から起こった。

 ナッシュは尻から地面に落ちるとそのまま二、三度ゴロゴロと転がり――


「ご、合格……だ」


 それだけ絞り出すと、そのまま目を回してしまった。


「――あ。しまった。ちょっと強過ぎましたか……! ごめんなさい、起きて下さい」


 力が入り過ぎたかもしれない。申し訳ない事をした。

 イングリスはナッシュに駆け寄り、ぺしぺしと頬を叩く。


 そうしていると――


「大変だーーーーッ! 魔石獣が出たぞーーーー! ナッシュ隊長! うあぁぁぁナッシュ隊長!? どうしたんですかっ!?」


 息を切らせて駆け込んで来た男が、白目を剥いているナッシュを見て悲鳴を上げたのだった。まずい――間が悪い。


「あ……み、皆さんとにかく迎撃に出ましょう!」

「お――おうっ!」

「そ、そうだな行かないと!」

「行こう! 急げ!」


 イングリスが呼びかけると、呆気に取られていた騎士達は一応動き出してくれた。

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